ＢＡＢＹＬＯＮ
バビロン

　これは、「ラ・ラ・ランド」のデミアン・チャゼル監督がブラッド・ピットを主演に迎え、１９２０年代のハリウッドを舞台にした群像劇。

　１９２０年代のハリウッド。当時、娯楽産業の花形として盛り上がっていた映画業界の豪華なパーティーの主役は、大スターであるジャックだった。
　そのパーティー会場で、スターを夢見る新人女優ネリーと、映画製作を目指す青年マニーが運命的な出会いを果たしていた。
　奔放なネリーは、女優として希有な才能を持ち、チャンスを掴むとスターへの道を駆け上がり、マニーはジャックの助手として映画界での一歩を踏み出して行く――しかし、サイレント映画からトーキーへと移り変わる激動の時代の渦が、３人の運命を呑込んでいく……

　この映画、冒頭の豪邸での乱痴気騒ぎに始まり、翌日、ジャック、マニー、ネリーの３人の１日を並行させて描きながら、当時の映画製作の現場を、怒濤の勢いで見せていく。この辺りは圧巻の出来栄えで、圧巻の一語に尽きます。
　パーティー会場での、酒とセックス、ドラッグの描写、そこで吹き飛ぶモラル……露悪的、と言うよりもブラックコメディでしかないパーティー描写もそうですが、ルール無用のはちゃめちゃさは翌日の映画撮影現場とて変わりません――ルールもモラルもそこにはなく、人命さえ軽んじられる世界……それを、デミアン・チャゼルが嬉々として描いているように見えたのは、現在、様々な規則に縛られた現場を生きている現在の映画製作におけるストレスを発散しているのではないか、と思ってしまったりもしました。

　だが、「ラ・ラ・ランド」もそうだったのだが、物語が動き出し、ドラマが描かれ出すと、途端に描写が陳腐になってテンポが悪くなるのは、デミアン・チャゼルの弱点――しかも、この映画、３時間以上と長いものだから、ドラマパートに入ってからのぐだぐだぶりは目に余ります。
　実際、中盤以降、当初の勢いは失われ、余計に思えるエピソードも少なくありません――最後のギャングの地下迷宮描写など、蛇足もいい所でしょう。

　勿論、それでも随所にいい場面を作りますし、ブラピはカッコよく、マーゴット・ロビーもキャリア最高レベルの素晴らしい演技。デミアン・チャゼルの映画愛もよく判り、決して悪い映画ではありません――料理に例えれば、味はよいが、盛り付けが下品な上に量が３人前、と言う感じで、食いきれずに悪評を言う人がいるのは判ります。もっとも、そんな部分も含めて、これが「映画」だと言う人向きとは言えるかも知れませんが……

　それにしても、「ラ・ラ・ランド」ではミュージカル、「ファースト・マン」ではアポロ計画、本作ではハリウッド勃興期と、正にアメリカの誇り、もしくは象徴とされるものを作品テーマに選ぶデミアン・チャゼル監督の勇気には毎度感心するばかりです。
　

　（２０２３年　２月１６日　Ｔ−ＪＯＹ横浜にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

デミアン・チャゼル

　■出演

ジャック・コンラッド　・・・　ブラッド・ピット

ネリー・ラロイ　　・・・　マーゴット・ロビー

マニー・トーレス　・・・　ディエゴ・カルバ

（その他のキャスト）
　ジーン・スマート　　ジョヴァン・アデポ　　リー・ジュン・リー　　Ｐ・Ｊ・バーン　　ルーカス・ハース　　オリヴィア・ハミルトンr
　トビー・マグワイア　　マックス・ミンゲラ　　ローリー・スコーヴェル　　キャサリン・ウォーターストン
　フリー　　ジェフ・ガーリン　　エリック・ロバーツ　　イーサン・サプリ―　　サマラ・ウィーヴィング　　オリヴィア・ワイルド

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