線は、　　
　僕を描く

　これは、砥上裕將の同題の青春小説を、「ちはやふる」シリーズの小泉徳宏監督の製作チームが映画化したもの。
　主演は、「アキラとあきら」の横浜流星。共演は、三浦友和に清原果耶、江口洋介ら豪華なキャストが揃いました。

　大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で、一枚の水墨画と出会い、思わず涙する――それが、喪失の悲しみを抱え、生きる意味を見失っていた霜介の世界を変える事になった。
　そこで、水墨画の巨匠・篠田湖山に声をかけられた霜介は、成り行きで水墨画を学び始める事になる。
　やがて、霜介の止まっていた時間が再び動き出し……

　この映画、日本を代表する水墨画家・小林東雲が水墨画監修を担当し、スクリーンに、その世界を鮮やかに映し出しています。
　２度描かれる、即興での水墨画製作シーンは、静謐なイメージのある水墨画をダイナミックなものと魅力的に見せますし、巧妙な撮影で、絵を描く三浦友和や江口洋介を本物の達人に見せるのにも感心しました。
　また、硯で墨をする事に始まり、筆の中に濃淡を作ると言う技術や、描くテーマなど、水墨画の基礎を解説しながら見せ、しかもそれを物語に織り込んで行くのも巧みです。

　喪失の悲しみに苦しむ主人公と、あと一歩、自分の道を踏み出せずにいるヒロイン、と言うふたつの成長譚を重ねた物語もよいのですが、霜介の過去については、早いうちに予測がついてしまうので、いささか引っ張り過ぎにも思えました。ここは、むしろその後の展開に、もう少し尺を取ってもよかったのではないでしょうか。
　また、表現を生み出す事の意味を問う物語は、表現者を目指す者だけでなく、広く人々の心を捉えるものだと思います。これはいい映画です。　
　

　（２０２２年　１０月２２日　Ｔ−ＪＯＹ横浜にて）

（作品データ）

　■監督

小泉徳宏

　■出演

　青山霜介　・・・　横浜流星

　篠田千瑛　・・・　清原果耶

　篠田湖山　・・・　三浦友和

（その他のキャスト）
　細田佳央太　　河合優実　　矢島健一　　夙川アトム　　井上想良　　富田靖子　江口洋介

　■コピー

涙をぬぐい、心を描け――

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