僕が　　　
愛した　　
すべての
君へ　　　

　これは、並行世界を描き話題となった乙野四方字の同題ラブストーリーを、タツノコプロの５０周年記念作として、「劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ」の松本淳監督、タツノコプロ内の新レーベルBAKKEN RECORD制作でアニメ映画化したもの。
　声の出演は俳優中心で、主演は「ｈｉｓ」の宮沢氷魚と、「ここは退屈迎えに来て」の橋本愛。

　並行世界の存在が知られるようになった世界。
　高校生の高崎暦は、ある日クラスメイトの瀧川和音から親しげに声をかけられる。戸惑う暦だったが、和音は、「自分は８５番目の並行世界から来て、この世界の和音と入れ替わった」と説明。向こうの世界では、暦と恋人関係にあった、と言うのだが……

　この２作のアニメ映画、どちらを先に観るかで結末が変わる、とされています。私は、「僕が愛したすべての君へ」から、２作続けて観賞しました。
　まず、「僕が愛したすべての君へ」の印象ですが、よくある、セカイ系の青春ラブストーリーか、と思っていたら、これがなかなかどうして立派なＳＦとなっていて、途中から身構えてしまったほど。
　感心したのは、ラブストーリーの背景として世界を設定するのではなく、これは、“並行世界”がある世界を設定し、その中で人がどう生きるのかを描く、本格ＳＦ。これは思った以上に楽しめました。

　ただ、その一方で、これを映画、特にアニメとして観ると厳しいでしょう。
　前述したように設定と物語はしっかりしているし、近未来技術の描写も煮詰めの甘さはあるとしてもなかなかなのですが、アニメとしては、肝心の絵が動かず、これでは「アニメではなく朗読劇」と言う評に頷かざるを得ません。
　また、声の出演は、最近の劇場アニメに多い俳優中心なのですが、主役の宮沢氷魚がダメだ。感情を露わにする場面で、どうしても違和感が先に立ってしまいました。
　自分は「アニメは声優を使うべき」信者ではありませんが、本作については、俳優起用のネガが前面に出てしまったように思います。　
　

　（２０２２年　１０月　７日　１０９シネマズ湘南にて）

（作品データ）

　■監督

松本淳

　■出演

高崎暦　・・・　宮沢氷魚

瀧川和音　・・・　橋本愛

（その他のキャスト）
　蒔田彩珠　　田村睦心　　浜田賢二　　園崎未恵　　西村知道　　平野文
　水野美紀　　余貴美子　　西岡徳馬

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