雨を告げる漂流団地

　これは、「ペンギン・ハイウェイ」の石田祐康監督の新作。

　小学６年の航祐は、かつてクラスメイトの夏芽と、姉弟のように団地で暮らしていた。
　そんな団地の取り壊しが決まり、それぞれ別の家で暮らすようになってから、ふたりの仲はぎくしゃくしていた。
　夏休み、航祐はクラスメイトと共に、夏休みの宿題として幽霊を捕獲すべく、解体作業が進み“幽霊団地”と言われるようになったかつて住んでいた団地に忍び込む。
　そこで、同様にこっそり団地に来ていた夏芽に出会って……　

　この物語ですが、その骨幹となる、建物が成仏するまでの煉獄、と言うアイデアは面白いし、そのビジュアルも秀逸――そのビジュアル、映像インパクトとしては、キム・ギドクの「人間の時間」に匹敵するものではないか、と思います。
　しかし、そんな美点を持ちながら、リアリズムの欠如、騒がしい描写、冗長な展開などで興を削ぐのが残念ではありますが……もっとも、主人公が小学生ばかりなので「人間の時間」のような閉鎖空間における極限のサバイバルドラマをやれ、とは言いませんが、逆に小学生故に生理的欲求は我慢できないはず。
　２日間飢えていた小学生が食物を前に、知的好奇心を優先するなど、さすがにありえないでしょう……この辺り、どうにも制作側に肌感覚のリアリズムの欠如を感じてしまいます。
　また、ヒロインである夏芽の性格付けがどうにも理解出来ません――トラウマを抱え団地暮らしに固執する、と言うドラマ上の役割と、航祐に対して姉のように振舞う、明るくて男勝り、と言う性格が相反し、人物像としては破綻しているように思うのです。
　物語展開としても、こんな二重人格的なヒロインのせいか迷走を繰り返し、同じようなエピソードを繰り返しているように思える上に、終盤のクライシスは余りにも長くて冗長……折角の設定を活かせていないのは残念に思えました。　
　

　（２０２２年　９月２１日　イオンシネマ海老名にて）

（作品データ）

　■監督

石田祐康

　■出演

　熊谷航祐　・・・　田村睦心

　兎内夏芽　・・・　瀬戸麻沙美

　のっぽ　・・・　村瀬歩

（その他のキャスト）
　山下大輝　　小林由美子　　水瀬いのり　　花澤香菜　　島田敏
　水樹奈々

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