これは、「乱世備忘　僕らの雨傘運動」のチャン・ジーウン監督が、現在の香港を描くドキュメンタリー。

　1966〜1976年の文化大革命から逃れるために命を懸けて海に飛び込み、恋人と共に香港まで泳いで渡った陳克治。1967年の六七暴動で抵抗者とされた事で、“中国人”である事を捨て経済人となった石中英。1989年の天安門事件を経験して自らを脱走兵と戒める林耀強。
　体制に抵抗した記憶は、かけがえのない瞬間の証でもある。
　映画は、香港の自由を求めて市民運動に参加する若者たちに過去を再現させる事で、激動の歴史を乗り越えてきた記憶と自由を守るために闘う姿を融合させて描き出す。

　この映画は、現在の香港で自由を求めて抗う若い三人の活動家に、それぞれ文化大革命、六七暴動、天安門事件と言う激動の歴史の中にいた若者を演じさせ、それに現在、香港市民が自由を守るために闘う姿と重ねて写し出す異色のドキュメンタリーとなっています。
　演じる若者は素人であるけれど、例え権力で押さえようとしても、自由を求める強い心の持ち主。そんな彼らの想いが、拙い演技を補って余りあります――これはある意味で、再現ドキュメンタリーと言えるものなのです。
　この手法の是非を問う事は出来ないけれど、確かな事は、中国人が、自由の為に抗って来た歴史は、今も人々の心の中にあると言う事でしょう。

　印象に残るのは、現在の陳克治が、香港のビル群が見える海で泳ぐシーン――かつて、自由を目指して泳いだ海、その自由の象徴であった香港から、自由が奪われつつある今、陳克治は何処まで泳げばよいのだろうか？
　そして、エピローグとして、多くの若者たちが、その抵抗の代償として逮捕され、処罰されていると言う現実に沈鬱な気持ちにさせられました。　
　

　（２０２２年　８月１２日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

チャン・ジーウン

　■出演

　陳克治　　石中英　　林耀強

　■コピー

香港、ここで生きていく

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