これは、韓国東部に実在する韓国初の私設駅・両元の駅舎の建立をモチーフに、ひとりの少年の挫折と再生を描いた物語。
　監督は「Ｂｅ　Ｗｉｔｈ　Ｙｏｕ　〜いま、会いにゆきます」のイ・ジャンフン。出演は、「ただ悪より救いたまえ」のパク・ジョンミンと、アイドルグループ「少女時代」のメンバーのイム・ユナ。

　韓国慶尚北道、奉化郡にある山間の村。そこには道路がなく、行き来出来るのは鉄道線路しかないが、村には駅がない。最寄り駅の承富駅までは、線路上を歩き、トンネル３つ鉄橋３つを越えなければならないのだ。定期列車は時刻表で判るが、時刻表にない貨物列車はいつ通るか判らず、幾度も線路上を歩く村人がはねられる事故を起こしていた。
　村の少年ジュンギョンは、父テユン、姉ボギョンと暮らしていたが、鉄道機関士の父は殆ど家に帰らない。往復５時間をかけ、山の麓の高校に通うようになったジュンギョンは天才的な数学の才能を発揮。その非凡さを見抜いたクラスメイト、自称「女神（ミューズ）」のラヒはジョンギョンの将来と駅開設のために全面的な応援を買って出るが……

　この映画、いかにエンターテイメントにするとは言え、これは、さすがに脚色が過ぎるのではないでしょうか？
　線路しか交通の便がない山村で、続発する事故に堪りかねた村人が、駅舎を建て、大統領府へ請願の末に駅として認められた、と言うエピソードだけでも充分に心動かす物語は出来そうなのですが、そこに、夢を諦めた少年が夢に向かって歩き出すドラマを描き、そこに親子関係の再生、家族の死の克服と感動を誘うエピソードをてんこ盛りにした挙げ句に、２０世紀の学園ラブコメか、と言う緩い恋愛劇まで重ねるのです。
　確かに、ジョンギョンの親子関係再生のドラマは、鉄道事故を絡めたものであるだけに理解出来るとしても、学園ラブコメパートはさすがに行き過ぎ――しかも、それを演じるのが、共に３０代でどう見ても高校生には見えないパク・ジョンミンとイム・ユナなのです。ふたりの将来図を描く訳でもなし、このキャスティングには正直、疑問を覚えました。

　その一方で、エピソードを盛り込み過ぎたせいで、あちこち寸足らず、またはほったらかしとなっているのも散見されるなど、ツッコミ処も満載……確かに、それでも韓国映画だけに、終盤は力技で泣かせにかかって来るのですが、肝心の私設駅舎の存在感が薄れてしまったのも含め、もっと物語を整理して見せて欲しかった所です。　
　

　（２０２２年　６月１７日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

イ・ジャンフン

　■出演

　ジュンギョン　・・・　パク・ジョンミン

　テユン　・・・　イ・ソンミン

　ラヒ　・・・　イム・ユナ

（その他のキャスト）
　イ・スギョン　　チョン・ムンソン

　■コピー

その線路は、夢に続いている――

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