オフィサー・アンド・スパイ

　これは、ロマン・ポランスキー監督による、冤罪事件“ドレフュス事件”の映画化。
　出演は、「アーティスト」のジャン・デュジャルダン、「ストーリー・オブ・マイライフ　わたしの若草物語」のルイ・ガレル。

　１８９４年、フランス。陸軍大尉ドレフュスは、ドイツに軍事機密を流したスパイ行為により終身刑を宣告される。しかし、新たに対敵諜報活動を行う情報部を任されたピカール中佐は、ドレフュスがユダヤ人であったが故に無実の罪を着せられ、真犯人が別にいる事を知ってしまう。
　ピカールは上官に対処を求めるが、軍の名誉を取り繕う事を考える上層部は、真実を隠蔽。ピカールを左遷し、辺境の前線に飛ばしてしまう。
　ピカールは、それでも尚、己の信念に従って、ドレフュスの再審を求め、作家のエミール・ゾラら支援者に協力を乞うが……

　この映画、日本ではあまり馴染がありませんが、フランス人にとっては歴史的冤罪事件である“ドレフュス事件”を題材にしたもの。この事件では、エミール・ゾラによる告発記事「我、弾劾す」が有名で、映画原題もそれを採っているのですが、内容としては、ゾラの役割を抑え、真実を知って、ドレフュスの名誉挽回に奔走する、ピカールを中心に据えているのが特異な部分。
　そして、このピカールと言う人物が曲者なのです。ドレフュスを弁護はするのですが、ピカール自身、ユダヤ人への偏見を持っており、プライベートでは、不倫恋愛に熱を上げています……決して、人格高潔とは言えない人物が、それでも正義を貫いて行くのです。その姿を通して、軍人としての名誉とプライド、更に、人として守らなければならない矜持を描く……と見るべきなのでしょうが、そこはポランスキー監督だけに、監督の過去と重ねて、そこに“言い訳”や“開き直り”を感じてしまうのはやむを得ない事かも知れません。

　映画としては、かなり長いスパンの話を、語り口の巧みさで混乱させずに見せてくれますし、法廷劇になりそうな物語を、様々に趣向を凝らして見せるのも、熟練の妙技と言えるでしょう。
　ただ、それでも、前述したように、ピカールの正義の“動機”部分がはっきりしない、と言うか曲解させてしまうような状況であり、物語の推進力を削ぐように思えたのが残念。
　また、日本人にはとっつき難い時代と内容の物語であるのに加え、事件背景にあるユダヤ人差別を、意図的に外したようにも思える映画予告編にも疑問を覚えました。　
　

　（２０２２年　６月　４日　Ｋｉｎｏシネマ横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ロマン・ポランスキー

　■出演

　ピカール中佐　・・・　ジャン・デュジャルダン

　アルフレッド・ドレフュス　・・・　ルイ・ガレル

　エミール・ゾラ　・・・　アンドレ・マルコン

（その他のキャスト）
　エマニュエル・セニエ　　グレゴリー・ガドゥボワ　　メルヴィル・プポー　　マチュー・アマルリック

　■コピー

歴史を変えた逆転劇

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