これは、アニメ業界を舞台にした辻村深月の同題小説を映画化したもの。
　監督は「水曜日が消えた」の吉野耕平。出演は吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子と実力派を揃えています。

　ＴＶアニメ「サウンドバック　奏の石」で監督デビューが決定した斎藤瞳。だが、放送枠は土曜夕方５時のアニメ・ゴールデンタイムで、ライバルは、瞳が憧れる天才アニメ監督・王子千晴の復帰作「運命戦線リデルライト」だった。
　そんな過大なプレッシャーに押し潰されそうな中、アニメイベントで行われた公開対談で、瞳は王子千晴に「絶対に勝つ」と勝利宣言をしてしまう。
　一筋縄ではいかないスタッフや声優たちを率いて、日夜アニメ製作に追われつつ、アニメの“覇権<ハケン>”を獲得すべく熱い争いを繰り広げる、その勝負の行方は……

　これは、アニメ製作を描く物語。一昨年にも「劇場版　ＳＨＩＲＯＢＡＫＯ」がありましたが、やはり、モノ作りの映画は面白いです。
　実際のアニメ製作現場を撮影、その作業工程を描くのも興味深いのですが、この映画のいい所は、モノ作りに臨むクリエイターの想いをちゃんと描けている事――この世の中が生きるに値する、と言う事を、そんな想いを共有出来るのだと言う事を伝えたい……アニメには、表現には、それが出来るのだ、と言う事を力強く謳い上げているのには感動します。実際、後半、幾度も泣かされてしまいました。
　また、そうしたポジティブな部分だけでなく、長時間労働や、やりがい搾取など、アニメ業界あるあるのネガティブな部分、行き過ぎた商業主義や、セクハラ・パワハラの横行など、日本社会の問題をもしっかり盛り込んで、“お仕事映画”としては、ほぼ文句なしの出来でしょう。そんな内容なのに、説教臭さは希薄ですし、下手にロマンス要素を挟まず、お仕事一本で突っ切った物語構成にも好感が持てます。

　もっとも、原作に引っ張られた部分があるとは言え、土曜夕方がアニメゴールデンタイムと言う認識はいささか古い――意欲的なアニメ新作競演は今や深夜枠でしょうし、ＴＶアニメの視聴率争いが社会現象化している、と言うのも不自然に感じました。
　また、“皆殺しのトミノ”世代なので、ＴＶアニメで主人公が死ぬエンドがありえない、とされるのもピンと来なかったり――これはこちらの感覚が古いせいでもあるのですが。、
　あと、関係者が全体的に若過ぎるようにも思えますが……これはまぁ、作劇上仕方のない所でしょうか。

　主演の斎藤瞳役の吉岡里帆は、終始張り詰め、疲れた表情で笑顔も殆ど見せないのですが、それでも美しいのは美人の特権。一方で、ライバルの王子を演じた中村倫也も、そのカリスマっぷりを体現する演技は見事です。儲け役は敏腕プロデューサーの行城を演じた柄本佑で、最初の“嫌なヤツ”が鮮やかに反転、その後の登場シーンは正に”白馬に乗った王子様”と言った感じでした。

　これは、自分的には今年一番の面白さでした。これは傑作だと思います。　
　

　（２０２２年　５月２０日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

吉野耕平

　■出演

斎藤瞳　・・・　吉岡里帆

王子千晴　・・・　中村倫也

（その他のキャスト）
　柄本佑　　尾野真千子　　工藤阿須加　　小野花梨　　高野麻里佳　　前野朋哉　　矢柴俊博　　新谷真弓
　松角洋平　　水間ロン　　前原滉　　みのすけ　　古舘寛治　　徳井優　　六角精児

　■コピー

好きをつらぬけ。

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