アンラッキー・セックス
またはイカれたポルノ
監督（自己検閲）版

　これはルーマニアのラドゥ・ジューデ監督が、コロナ禍を背景に偏見や個と公などについて問いかけ、第７１回ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた三部仕立てのブラックコメディ特別版。尚、オリジナル版は第９４回アカデミー賞国際長編映画賞ルーマニア代表作品に選出されています。

　ルーマニアの首都ブカレスト。名門校で歴史教師を務めるエミは、夫とのプライベートセックスビデオがパソコンよりネットに流失し、生徒や親の目に触れることとなってしまった。
　保護者会に向けた事情説明に校長宅に向け、コロナ禍の街を歩くエミ。彼女の抱える不安や苛立ちは、街ゆく人々も共有する怒りと絶望であった。
　そして、学校でエミの問題について保護者会が開かれる。それは異端審問さながらの保護者たちによる終わりなき“裁判”だった……

　この映画、エロティックなポルノ紛いの内容を期待すると裏切られた気持ちになるでしょう。確かに、冒頭にエミのセックスビデオ映像があるのですが、行為に入る前に監督自身による＜検閲＞で、全面に字幕が被せられ、映像はほぼ何も見えなくなってしまうのです。
　映画は三部構成となり、第１部は、主人公エミが街をひたすら歩いている姿を写し、第２部では言葉が羅列され、その“解釈”が語られます。ブラックジョークのような内容ですが、現実社会も解釈やら言い換えやら、同様の事が頻発しているので笑うに笑えないのです――これが“ニューノーマル”と言うことでしょうか。第３部では保護者会と言う名の異端審問にエミがかけられます。その綺麗事と理不尽さの横行ぶりは、これもまた現実のカリカチュアライズと言えると思います。

　三部を通し、映画の根底にあるのは、“怒り”なのでしょう――長年の共産独裁政権を倒し、市民の為の社会に作り替えた筈のルーマニア社会の根底に“隠された不条理”に対しての――その“隠された不条理”をポルノに代弁させ、様々な非難の応酬を現実社会の映し鏡としているように思えました。
　その隠された社会の不条理を炙り出したものが、コロナ禍だった、と言う事でしょうか……　
　

　（２０２２年　５月　２日　シアター・イメージフォーラムにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ラドゥ・ジューデ

　■出演

　エミ　・・・　カティア・パスカリウ

（その他のキャスト）
　クラウディア・イェレミヤ　　オリンピア・マライ　　ニコディム・ウングレアーヌ　　アレクサンドル・ポトチェアン　　アンディ・ヴァスルイアヌ

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