ＴＩＴＡＮＥ
チタン

　これは、「ＲＡＷ　少女のめざめ」のジュリア・デュクルノー監督による第７４回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
　主演は、本作が長編デビューとなるアガト・ルセル。

　幼少時の交通事故によって頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。彼女はそれ以来“車”に対する変質的な愛情と、人間に対する衝動的な暴力行為に駆られるようになる――やがて、連続殺人により行き場を失ったアレクシアは、1０年前に行方不明となった息子を探している消防士のヴィンセントの息子だと名乗り出て、身分を偽りながら彼の保護を受けるのだが……

　これは、昨年のカンヌで「ドライブ・マイ・カー」に競り勝ってパルムドールとなった映画ですが……これまた無愛想で、寡黙で、その癖、インパクトだけは強烈な映画です。
　自動車ショーで、イベントコンパニオンとしてセクシーな踊りを見せつけたアレクシアが、夜、そのクルマに犯されると言う展開……その一方で、人との係わりが”無視”と”殺す”しかない彼女の偏った人間性……それがどうしてそうなったのか、映画は全く説明しないのです。
　物語はそうして、一切の説明を抜き、観客の理解も得ずに、セックスと暴力、そして殺人を見せつけ……そこから逃げ出した後で、息子を失った男の息子に成りすまして暮らす、奇妙な同棲生活を描いて行きます。その中で生じる、クルマとのＳＥＸの”結果”が、映画のクライマックスとなります。

　難解な映画ですが、描こうとするものは肉体の変容でしょうか……成長ではなく、人間として完成した肉体からの変容――人には”老い”と言う変容に加え、女性ならでは”妊娠”と”出産”と言う変容もあるのです。胎児を孕んで膨らむ腹、肥大して垂れる乳房と黒ずむ乳首……それをカメラの前に曝け出し、グロテスクなまでに誇張し、カリカチュアライズして描くのが本作の取り組みであり、それを以て、女性が、と言うよりも人が直面する己の変容を描き出すのです。

　主演のアガド・ルセルは、そんな映画の狙いに応え、正に全て曝け出して見せるのですが、そんな彼女が魅力的に、そしてセクシーに見えるのは冒頭と最後に見せるダンスシーンで、いずれも着衣状態であり、ヌードを見せる事がセクシーではない、と言う表現もまた挑戦的です。
　これは一種のアートフィルムであり、そう見るならば寡黙なのも当然……カンヌで評価されたのも、このインパクトと高い芸術性を考えれば納得は出来る、かも知れません……まぁ、それにしても観客を選ぶ映画だとは思いますが。　
　

　（２０２２年　４月　４日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

ジュリア・デュクルノー

　■出演

　アレクシア　・・・　アガト・ルセル
　
　ヴィンセント　・・・　ヴァンサン・ランドン

（その他のキャスト）
　ギャランス・マリリエ　　ライス・サラメ　　ベルトラン・ボネロ　　ドミニク・フロ　　松崎広幸

　■コピー

壊して、生まれる。

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