これは、イタリアのディーノ・ブッツァーティによる同題の児童文学をアニメ映画化したもの。
　監督は、在仏イタリア人アーティスト、ロレンツォ・マトッティ。2019年カンヌ国際映画祭ある視点部門、2019年アヌシー国際アニメーション映画祭公式上映作品となります。

　旅芸人のジェデオンと、見習の少女アルメリーナは、山中で吹雪に見舞われ、洞窟に逃げ込んだ。ほっとしたのもつかの間、そこに冬眠から目覚めた老クマが現れる。
　ジェデオンはクマに食べられまいと、機嫌を取るべく、古くから伝わるクマの物語を語り始める――遠い昔、山奥に平和なクマの王国があった。ある日、クマの王レオンスの息子トニオがいなくなる。悲しむレオンスに、長老テオフィルが人間の暮らすシチリアに行けば見つかるかもしれないと進言する。レオンスはクマの群れを引き連れてシチリアに発つが――

　このアニメですが、まずは特徴的な絵に惹かれます。独特の暖かで柔らかな色彩で描かれた世界に、粗削りな面で構成されたクマのキャラクター……もふもふ、と言うよりも木彫りのクマのプーさん、と言う感じなのです。
　物語の構成としては凝っていて、洞窟の中の一夜の語りを、旅芸人の話に終わらせず、その続きを老クマが語り出す、と言う折り返しのある内容となっています。
　これは、「めでたし、めでたし」で終わらない童話なのです。

　その語られる物語は、旅芸人の方は、息子を、残忍で暴虐な独裁者に奪われたクマ王が、独裁者を倒して息子を取り戻すもの。
　その続きとなる老クマの話は、無欲で高潔であったクマが、独裁者を倒して権力を手にすると、今度はクマたちも腐敗する、と言うものなのです。
　原作の童話が書かれたのは、１９４５年――ファシストの独裁者を打ち倒し、欧州が自由を取り戻した、正にその時です。その歓喜と熱狂の中で、この物語の醒めた視線は何なのでしょう……そして、クマと言うのが、ロシアとロシア人のイメージに重なる存在である、と言う事を考えると、この物語の意味する事、そして、その中で予見した事の重さに気づかされます。
　

　（２０２２年　３月２１日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

ロレンツォ・マトッティ

　■出演

アルメリーナ　・・・　レイラ・ベクティ
ジェデオン　　・・・　トマ・ビデガン

レオンス　・・・　ティエリー・アンシス

（その他のキャスト）
　ジャン＝クロード・カリエール　　ベッペ・キエリーチ　　アルチュール・デュポン　　パスカル・デモロン　　ジャッキー・ネルセシアン　　 ボリス・レリンジャー

　■コピー

クマは　ハダカの　ほうがいい

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