ポゼッサー

　これは、鬼才デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグの監督第二作。
　出演は「ニューヨーク　親切なロシア料理店」のアンドレア・ライズボロー、「ヘイトフル・エイト」のジェニファー・ジェイソン・リー。

　他者の人格を乗っ取り、殺人を行う組織のベテラン暗殺者、タシャ。
　標的に近しい人物をホストとし、その脳内に挿入したインプラントと、特殊なデバイスにより、人格を乗っ取って殺人を行うのだ。その後、ホストを自殺させ、“離脱”する――しかし、あるミッションで、タシャはホストを自殺させられなかった。その日から、タシャの中の何かが狂い始める……

　この映画、骨幹となるアイデアはなかなか面白いです。そして、冒頭、人格乗っ取りにより行われた殺しの一幕はショッキングで、インパクトも充分――しかし、この映画、それを超えるものをとうとう出せないのです。
　デヴィッド・クローネンバーグならば、“特殊なデバイス”を、生理的な嫌悪感さえ生む、独特のものに仕立てたでしょうが、この映画は見せるものはあまりに工夫がなさ過ぎるのではないでしょうか。勿論、低予算の映画なのは判ります。でも、だからこそのセンスであり、見せ方だと思うのです。
　殺人の描写も、繰り返される人体破壊と流血だけだし、壊れていくタシャの心象風景にも、センスを感じません。不安感を煽る音楽、繰り返されるイメージシーンの挿入も、どうにも単調に感じられます。
　物語も、タシャが大切な人を殺してしまうシーンで終わるのですが、これはむしろ、起承転結で行けば「転」を生じさせる動機のようなもの……何だか物語が動き出す前に終わってしまった、そんな印象を受けました。

　鬼才と言われた父、デヴィッド・クローネンバーグと比べるのも気の毒なのですが、息子のブランドンが作る映画は、凡庸で個性に欠け、そして芸のない印象です。
　

　（２０２２年　３月　５日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ブランドン・クローネンバーグ

　■出演

タシャ・ヴォス　・・・　アンドレア・ライズボロー

（その他のキャスト）
　クリストファー・アボット　　ジェニファー・ジェイソン・リー　　ショーン・ビーン　　ガブリエル・グラハム　　ロッシフ・サザーランド

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