スティルウォーター

　これは、「スポットライト　世紀のスクープ」のトム・マッカーシー監督が、マット・デイモン主演で描くサスペンス。共演は、アビゲイル・ブレスリン。

　オクラホマ州の田舎町スティルウォーターで、失業中の石油掘削作業員ビルは、マルセイユで収監されている娘のアリソンと面会する為にスペインに飛ぶ――アリソンはマルセイユに留学中に、ルームメイトのレナを殺害したとして９年の刑を受けながらも、無実を訴え続けていた。
　アリソンから真犯人の新たな手がかりを得たビルは、弁護士に再調査を求めるが、まともに取り合ってもらえない。ビルは、異国の地で言葉の壁や文化の違いに苦しみながらも、偶然知り合ったシングルマザーのヴィルジニーの協力を得て、自力で再調査を続ける。
　その中で、ビルは、ヴィルジニーと、彼女の娘・マヤとの絆は次第に深まり、やがてヴィルジニーのアパートで同棲するようになって……
　
　この映画、予告編では、謎解きサスペンスのように紹介されていますが、その実は、アリソンの冤罪の証明に、ビルの異国での恋、父娘の絆の再生、それに加え、アメリカ人の持つ無邪気な暴力性が国外で生む軋轢までも盛り込んだ、重厚で骨太な物語。これを１本にまとめ上げた、トム・マッカーシー監督の豪腕が光ります――さすがに、映画中盤、ビルとヴィルジニーの関係性が深まって行く辺りは物語が迷走しているようにも思えましたが……

　マット・デイモンは、最近、持ち味のキレ者優等生、と言うキャラクターを意図的に変え、「最後の決闘裁判」での役柄にも通じる無骨で鈍重な男、と言う役を見事に演じています。マルセイユの町並みの中で浮きまくる、キャップにチェックのネルシャツのアメリカン・ワーカー姿が印象的。
　共演のアビゲイル・ブレスリンは、最早少女と言えない年だけど、相変わらず顔がまん丸だなぁ、と思ってしまいました。

　映画は、最後にアリソンの釈放を描くのですが、決してすっきりとはしない終わり方……アリソンの釈放と帰国を成し得たビルだけど、失ったものも多く、また、アリソンとて殺人罪は冤罪と認められたものの、決して潔白ではない事をビルは知ってしまいました。
　そんな、一筋縄には行かない人生と言うものを描く物語には見応えがあります。　
　

　（２０２２年　１月１６日　川崎チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

トム・マッカーシー

　■出演

　ビル　・・・　マット・デイモン
　
　アリソン　・・・　アビゲイル・ブレスリン

（その他のキャスト）
　カミーユ・コッタン　　リル・シャウバウ　　イディル・アズーリ

　■コピー

真実は、深く、
沈んでいく。

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