ＪＯＩＮＴ

　これは、現代日本で“裏社会”との狭間を生きる男の生き様をハードボイルドタッチで描く映画。
　東京大学建築学科在籍中からMVなどの映像を手掛けていた小島央大の長編監督デビュー作。出演する俳優も、主演の山本一賢からして、これが映画デビューの新人で、出演者の殆どが演技経験がないのだ、と言う事のようです。

　恐喝で２年間服役した石神武司。刑務所から出所後、１年間の肉体労働で“綺麗な金”を作ると、友人のツテで事務所を借りて仕事を始める。
　石神の専門は、“名簿屋”だ。様々なツテで入手した情報を組み合わせ、“価値ある”名簿にして、特殊詐欺用をシノギとするヤクザに卸すのだ――ヤクザではないが、カタギでもない。犯罪とのボーダーラインの仕事……そんな石神は、所謂、“半グレ”なのだ。
　見かねた友人が、石神の知識を活かせるベンチャー企業を紹介、石神は、出資者兼コンサルタントとしてビジネスを成功に導いて行くが、裏稼業から縁を切るのは、簡単な事ではなかった……

　この映画、現代の東京の“裏社会”を徹底的にリサーチ。他に例を見ない、リアルかつ、独特の“裏社会”を描き出しています。
　クライム・ムービーにはありがちな、過剰な暴力やセックスの描写に頼らず、音楽で盛り上げる事もせず、淡々と男たちの生き様を描いて行くストイックさに痺れます――これぞ本物のハードボイルドです。
　映像としても、低予算のハンデを背負いながらも、それを逆手に取った、登場人物に密着するカメラで、ドキュメンタリー映画のような臨場感を生み出しています。更に、ロケの多用や、逆光でシルエットを浮き立たせるカットで印象的な絵を作って行くのです。
　人物や背景などの描写を大胆に省いて、テンポよく物語を見せて行くのは、海外映画のようでもあり、ベタベタした義理人情を情緒たっぷりに見せる日本映画とは全く異質の感触。
　この映画が、低予算のインディーズ映画である事に加え、監督・脚本・主演の何れもこれが初めて、と言う新人の手から生まれた事が信じられません……ジャパニーズ・ノワールの新たな世界を見せる、この若き才能に注目です。　
　

　（２０２２年　１月１２日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

小島央大

　■出演

石神武司　・・・　山本一賢

（その他のキャスト）
　キム・ジンチョル　　キム・チャンバ　　三井啓資　　樋口想現　　伊藤祐樹　　櫻木綾　　鐘ヶ江佳太　　林田隆志
　宇田川かをり　　平山久能　　二神光　　伊藤慶徳　　片岸佑太　　南部映次　　尚玄　　渡辺万美

　■コピー

名簿売買、暴力団、特殊詐欺、ベンチャー投資、外国人犯罪組織、
　　――これが、現代日本の犯罪のリアルだ。

［戻る］