これは、窪田正孝×宮沢りえ共演によるポリティカルコメディ。監督・脚本は「ピンカートンに会いにいく」の坂下雄一郎。

　地方都市の地元選挙区に強い地盤を持つ衆議院議員・川島昌平が病に倒れた。次の国政選挙に誰を立てるかで、地方議員や後援会の意見が割れ、結果として、白羽の矢が立ったのは川島の娘である有美。
　川島事務所の政策秘書の谷村は、自由奔放で世間知らずな有美に振り回される羽目になるが……

　この映画、予告編にあるような選挙ネタのコメディか、と思ってたら、これがなかなか見応えありの内容となっていました。
　そこに描かれるのは、政治と選挙あるある、と言うよりも、日本社会の有り様あるある――臭いものには蓋をし、前例を踏襲し、老害と陰口を叩きながらも、年長者を立てて行く……ここに描かれるのは、正に現代日本の縮図なのです。
　そんな現状に、世間知らずのお嬢様である有美が衝突して引っかき回し、それを事なかれ主義の谷村が手綱を引いていく、と言うのが序盤の展開で、予告編でも紹介された部分――いささかベタなものであるとは言え、これはこれで面白いのは確かです。

　そんな有美を演じるのは、宮沢りえ。宛て書きされたと言う事もあり、確かにハマり役ではあるけれど、あまりの世間知らず描写に、これはもう少し若い女優の方がよかったようにも思ってしまいました。その一方で、谷村を演じた窪田正孝は文句なし。前髪を眉に被せ、表情が見えないようにしたのもいい感じです。
　また、胡散臭い人物を演じる事の多い小市万太郎がパリっとしたスーツを着て髪を整え秘書長を演じているのもよかったし、後援会の面々を始め、いい顔のおっさんを揃えているのもリアルです。

　中盤以降は、有美と谷村が、そんな現実に立ち向う事になり、時にサスペンスフルにもなる、思わぬ展開を見せていくのです――そう、これは、映画前半でさんざ描いた、どうしようもない現実に対し、それを変えるべきだ、と声を上げる映画なのです。
　それが蟷螂の斧だったとしても、拳を振り上げ、声を上げなければならないと言う姿勢には心打たれます。
　これは、思った以上の力作で、昨年の「総理の夫」とは大違い。「政治」を描くなら、せめてこのくらいはやらなくちゃ。　
　

　（２０２２年　１月　９日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

坂下雄一郎

　■出演

谷村勉　・・・　窪田正孝

川島有美　・・・　宮沢りえ

（その他のキャスト）
　赤楚衛二　　内田慈　　小市慢太郎　　音尾琢真　　たかお鷹　　高瀬哲朗　　今村俊一　　小林勝也
　原康義 石川武　　松井工　　久松信美　　田村健太郎　　駒木根隆介　　前野朋哉

　■コピー

私に清き一票を・・・入れないでください！

［戻る］