明け方の
若者たち

　これは、若者に人気のＷＥＢライター、カツセマサヒコの同題青春恋愛小説を映画化したもの。
　監督は「キスカム！」の新鋭、松本花奈。出演は、北村匠海、黒島結菜。

　「私と飲んだ方が、楽しいかもよ？笑」。その１６文字から始まった、５年間。
　大学４年の<僕>が参加した退屈な飲み会。そこで出会った<彼女>に<僕>は一目惚れ。そんな彼女からの１６文字のメールに<僕>は店を飛び出した――世界が<彼女>で満たされる一方で、社会人になった<僕>は「こんなハズじゃなかった人生」に打ちのめされていく。
　夢見た未来とは異なる現在。親友と夜明けまで飲み明かした時間と<彼女>だけが、救いだった……でも、僕はわかっていた。いつか、この時間に終わりが来ることを――

　この映画は、Ｚ世代の若者に支持された物語を、２３歳の監督が映画にした、“現代の若者”による物語……でも、いつかはなくすと判っていたものをなくした後に懐かしむ物語は何処か古臭い――映画の中の若者よりも３０も余計に歳を食った自分にも、これが響くと言う事に、この想いが普遍的である事にほっとする一方で、そうした“かつての若者”らに迎合しているのだとしたら悲しい事だとも思ってしまいます。これが現在の若者にどう受け止められるのでしょうか？

　<僕>を演じた北村匠海は、その持ち味である“死んだような目”も、周囲に馴染めない感もぴったりのハマリ役。でも、それ以上に、ヒロインである<彼女>を演じた黒島結菜が実にいい。少女から女性へ、正に一皮むけた輝きを見せています――<僕>が一目惚れするのにも納得ですし、この物語が描く「いつか終わっちゃう青春」の輝きを体現する存在になっています――それにしても、黒島結菜が、人妻を演じるようになるとは……

　だが、映画の作りはかなりあざとい。<彼女>が人妻、と言う事を<僕>も最初から判っているのに、観客に伝えず、２人の破局の後でそれを明らかにする展開はいただけない――確かに、一人称で書かれた小説ならば「有り」の手法だろうが、映画では見直す所ではないか、と思います。
　また、黒島結菜に「脱げない」と言う制約があるとしても、２人の最後のセックスシーンがバスローブを着たまま、と言うのも不自然極まる。「セックスを描く」のは、バスローブを着たままの黒島結菜にガニ股で男を抱え込ませる、と言う描写ではないだろう、と思います……脱げないなら脱げないで、描写のやり方はいくらでもある筈で、この辺りは若い監督をちゃんと指導して欲しいと思うのですが……

　それにしても、先日の「シノノメ色の週末」も同様でしたが、まだ２０代の若者が、青春時代を振り返る、と言う話は如何なものか――２０代、３０代など、今や「まだまだこれから」でしょうに、早くも過去を懐かしむなどして老成してどうするのか、と。
　昔話など、５０年後でも出来るのです。現代の若者が、こんな年寄りの昔話みたいな物語を支持するのか？と疑問に思ってしまいました。　
　

　（２０２１年　１２月３１日　川崎チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督

松本花奈

　■出演

<僕>　・・・　北村匠海
　
<彼女>　・・・　黒島結菜

（その他のキャスト）
　井上祐貴　　山中崇　　楽駆　　菅原健　　高橋春織　　三島ゆたか　　岩本淳　　境浩一朗
　永島聖羅　　木崎絹子　　寺田ムロラン　　田原イサヲ　　わちみなみ　　新田さちか　　宮島はるか
　佐津川愛美　　高橋ひとみ　　濱田マリ

　■コピー

僕は最初からわかっていた。
いつか、この時間に終わりがくることを…。

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