ＳＷＥＥＴ　ＴＨＩＮＧ
スウィート・シング

　これは、「イン・ザ・スープ」のアレクサンダー・ロックウェル監督による、２５年ぶりの日本劇場公開作。
　主役の姉弟を監督の実子であるラナとニコの姉弟が演じ、母親を監督のパートナーであるカリン・パーソンズが演じています。父親役は、「ミナリ」のウィル・パットン。

　１５歳のビリーは、１１歳の弟ニコと、普段は優しいが飲んだくれてはトラブルを起こしてばかりいる父、アダムと暮らしている。
　ある日、アダムが強制的な入院措置となり、身寄りのないビリーとニコは、家を出ていった母、イヴを頼るが、イヴは我が儘で粗暴なボーと言う男に夢中。
　夏休みを、海辺のボーの別荘でイヴと過ごす事になったビリーとニコだが、そこでビリーは黒人少年、マリクと出会って……

　これは、ろくでなしの大人たちに翻弄される子供たちの姿を描いた映画。
　飲んだくれの父、そんな父を捨ててこれまたろくでなしのマッチョ男に夢中の母……そんな中で懸命に生きるビリーの達観したような表情が痛い――こんな状況下では、子供は子供でいる事が出来ないのです。
　この冒頭ビリーを演じた、ラナの演技力には感嘆します……１５歳の少女が、人生に疲れた中年女のような目をしているせいで、ぐっと大人に見えるのです。
　映画はモノクロですが、その映像の中に、時々カラーの幻想的な映像が現れます――それはビリーが心の中に生み出した逃避先でしょう。

　映画は延々、大人たちの横暴を描き、中盤を過ぎて子供たちの反撃があり、そして反転――そこから始まる、行く当てもない逃避行。子供らしく奔放に遊ぶうち、ビリーの表情も和らぎ、漸く年相応の顔になります。
　だけど、それが真っ当な道でない事に姉弟は気づいているのです――「悪い人になりたくない。ちゃんと生きたい」……周りのろくでなしの大人たちを反面教師にし、立派に育っているニコの言葉が刺さりますし、そんなニコを護り育てたビリーに胸が痛みます。

　映画は呆気のない終劇を迎えます。
　ここで、物足りなかったのが、やはりマリクの描写――連れ出した水辺で、ビリーの歌で我を取り戻す、となってくれればよかったようにも思いますが、それでは作為が過ぎるかな……　　
　

　（２０２１年　１２月２９日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

アレクサンダー・ロックウェル

　■出演

ビリー　・・・　ラナ・ロックウェル
ニコ　　・・・　ニコ・ロックウェル

アダム　・・・　ウィル・パットン
イヴ　　 ・・・　カリン・パーソンズ

ボー　・・・　Ｍ・Ｌ・ジョゼファー

（その他のキャスト）
　ジャバリ・ワトキンズ　　スティーブン・ランダッツォ

　■コピー

宝物みたいな１日だった。

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