The Donut King
ドーナツキング

　これは、アメリカでドーナツ王と呼ばれたカンボジア人、テッド・ノイの人生に迫ったドキュメンタリー。
　監督は、新人のアリス・グー。

　アメリカで広く親しまれる揚げ菓子のドーナツ……そんなアメリカ国内には約２万５０００店のドーナツ店がある。ダンキンドーナツなど大手チェーン系列外の家族経営の店舗はうち、約５０００店になるが、そのうち９５％がカンボジア人のものであり、カリフォルニアでは「ドーナツとはアジア人の店で売ってるもの」と認識されているのだと言う。
　そんな状況を作り出したとされるのが、カンボジア人男性テッド・ノイ。
　カンボジア軍少佐だった彼が如何にしてアメリカに渡り、ドーナツ王となっていったのか……カンボジア内戦、難民問題、大手チェーン店と個人経営店の最新ドーナツ事情……映画は、彼の数奇な半生を描き出す。

　これぞ正にアメリカン・ドリーム。
　ポル・ポトに追われ、国を捨てて体ひとつでアメリカにやって来たテッドは、数年のうちにドーナツ店で成功、やがて、内戦によるカンボジア難民を次々に受入れてドーナツにより、カンボジア人のコミュニティを作り上げて行くのが描かれます。
　一時は、テッドのドーナツチェーンはカリフォルニア州の大半を制し、その資産は２０００万ドルに達したと言われます――ここまでの展開には引き込まれますし、これはゼロからの立身出世を描く、ビジネル成功譚としても、人生譚としても見事、と言うしかありません。

　中盤以降は、テッドがギャンブルにハマり、女性問題も起こして、資産も家族も全て失い、失意の末に故郷へ戻る……と言う展開になるのですが、ここで、後進世代へ話題をすり替えてしまうのが物足りなかった所。
　確かに、テッドが切り拓いた、カンボジア人によるドーナツ店ビジネスの現在の様相を描く意味はあるとしても、華やかな前半部をより輝かせる点でも、テッドの転落と言う暗部と、彼のその後の人生をしっかり描くべきではなかったのではないでしょうか。　
　

　（２０２１年　１２月２９日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

アリス・グー

　■出演

テッド・ノイ　　クリスティ　　チェト・ノイ　　サヴィ・ノイ

　■コピー

誰もが大好きなドーナツの
　　誰も知らない驚きの真実

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