渡	バ	そ
さ	ト	し
れ	ン	て
た	は

　これは、２０１９年の本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同題小説を、「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督が映画化したもの。
　主演は永野芽郁と石原さとみのＷ主演。共演は、田中圭、大森南朋、市村正親。

　高校三年生の優子は血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も苗字が変わった。今は訳あって料理上手な義理の父・森宮さんと二人で暮らしている。卒業式で弾くピアノを猛特訓する優子だが、将来のことも、恋のことも、友達のことも、うまくいかないことばかりだった……
　一方、梨花は夫を何度も変えて自由奔放に生きている。泣き虫な娘・みぃたんに愛情を注ぎ暮らしていたが、ある日、娘を残して突然姿を消してしまい……

　これは、よく作り込まれた物語だと思います。いつもニコニコ、衝突と軋轢を避けて生きる少女と、奔放なシングルマザー、対照的な２人の物語を描いて、それが最後の結婚式に向け、ピタリと収まって行くのは、まるでパズルのようで、確かに「そう来るか」と言う面白さがあり、原作小説が高く評価されたと言うのも判ります。
　ただ、少なくとも映画版については、そんな物語を成立させる為の作為もかなり目につき、感情移入を削がれる場面もありました。
　また、２つの物語がどのように繋がるのか？と言う謎解きの面白さは、散りばめられたヒントで中盤には概ね予想はついてしまいますし、それを作り手の方も判っていて、中盤以降は、やたらと情緒を揺さぶる、“泣かせ”の演出が続きます――映画の宣伝文句にも「涙が止まりません」とありますが、実際、後半１／４はそんなシーンの連打なのです。確かに涙が止まらない観客もいるでしょう。（実際、映画館で隣席の女性は終盤泣き通しでした）それにしても、ここまで続くと正直疲れてしまい、クライマックスの結婚式には、既に涙も涸れ果てた、と言う感じです。確かに、日本映画では「泣ける」のがウリ文句となるのですが、これはさすがにやり過ぎだと思います。

　また、自由奔放な梨花の生き様……子供が欲しいから子持ちと結婚、父親から娘を奪って、生きる為に男を取っ替え引っ替えと言う人生を果たして肯定してもよいものでしょうか？……確かに、悲しい最期を迎えはするものの、それもまた、観客の反感を抑える事を計算しての設定の様にさえ思えてしまいました。
　そんな事を思ってしまうのも、この映画が１３７分もあるからで、むしろ、この物語であれば、コメディタッチにしてテンポよく物語を進め、映画最後に涙を振り絞る、と言う、韓国映画的にまとめた方がよかったのではないでしょうか？
　

　（２０２１年　１０月３０日　Ｔ−ＪＯＹ横浜にて）

（作品データ）

　■監督

前田哲

　■出演

森宮優子　・・・　永野芽郁

森宮さん　・・・　田中圭

梨花　・・・　石原さとみ

（その他のキャスト）
　岡田健史　　稲垣来泉　　朝比奈彩　　安藤裕子　　戸田菜穂　　木野花　　大森南朋　　市村正親

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