これは、ゆっくり動くものを低速度撮影し、早回しして見せるタイムラプス映像のパイオニアと言われる映像作家ルイ・シュワルツバーグが、きのこなど菌類の不思議に迫るドキュメンタリー。
　ナレーションを、「ルーム」の主演女優で、きのこ好きだと言うブリー・ラーソンが務めています。

　きのこなど菌類は、植物と動物の間にあり、有機物を分解して、豊かな土壌を作る生態系にとって欠かすことの出来ない役割を担っている。
　きのこの様々な効果を世に広め、きのこ界の有名人であるポール・スタメッツ、ジャーナリストのマイケル・ポーラン、人気フードライターのユージニア・ボーンらにより、医療や治療、環境問題など、様々な観点からきのこの世界が語られていく。

　映画は、きのこの成長を、美しくもダイナミックに捉えた様々なタイムプラス映像に始まり、生態系における菌類を役割を解説して、あたかもネイチャードキュメンタリーのように始まります。ルイ・シュワルツバーグのタイムプラス映像で捉えられた様々なきのこの成長シーンは、それだけでも、異世界をのぞき込むような新鮮な感覚に溢れ、見応えがありますし、動物の死骸や、果実など有機物を土壌に戻すシーンは、自然界における菌類の働きを見事に捉え、説得力充分に見せるもので、その学術的・教育的価値は高いだろうと思います。

　だが、映画は思わぬ方向へ進みます。
　フードライターが登場しながらも、きのこ料理は画面には登場せず、ネイチャー・ドキュメンタリーとしては、きのこそれぞれについての解説もされません。
　やがて、話題はマジュック・マッシュルームから、きのこが持つ幻覚成分について語られていくのです。
　マジック・マッシュルームに含まれる成分シロシビンの医学的なアプローチや、終末期医療における鬱症状への効果も見られる、などは興味深く観られたのですが、人類の急速な進化にきのこの幻覚成分が寄与していた、とか、末期ガンにきのこの薬効成分が効く、と言う内容になってくると、さすがに胡散臭く感じられます。
　（字幕監修に当たった専門家も、本作製作には専門家が関与しておらず、「そうした意見もある」と注釈を入れたくなったと言う）
　そうした分は、ある種の宗教勧誘映画のようでもあり、こんな映画が商業映画としてリリースされる事について、何か狙いがあるのではないか、と思ってしまいました。
　

　（２０２１年　１０月１７日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

ルイ・シュワルツバーグ

　■出演

　ナレーション　・・・　ブリー・ラーソン

（その他）
　ポール・スタメッツ　　マイケル・ポーラン　　ユージニア・ボーン

　■コピー

あなたは、
きのこの偉大さをまだ知らない。

［戻る］