草
の
響
き

　これは、「海炭市叙景」に始まり、「きみの鳥はうたえる」など、函館の映画館シネマアイリスが製作を手がける佐藤泰志原作映画の第５弾。
　監督は「空の瞳とカタツムリ」の斎藤久志。出演は、「寝ても覚めても」の東出昌大と、最近大人気の奈緒。

　東京で出版社に勤めていた工藤和雄は、妻の純子と共に故郷の函館に戻ったが、慣れぬ営業の仕事で精神に失調を来たし、病院の精神科を受診。統合失調症と診断され休職した和雄は、運動療法として、朝晩２回のランニングをする事となった。
　一方、高校生の小泉彰は、札幌から函館に引っ越してきた。転校したばかりで孤立気味だったが、スイミングクラブで出会った高田弘斗と仲良くなって、函館港の人工島で共に過ごすようになる。
　人工島は、和雄のランニングコースで、やがて３人は時々一緒に走るようになるが……

　不器用な人たちの生き難さを描いて来た佐藤泰志原作のシネマアイリス映画ですが、この映画はどのように理解すべきか迷ってしまいます。
　物語としては、和雄と彰と言う、何処か似ている２人の男の引き起こす、周囲との軋轢を描くもの――真面目なのだけど、周りの人々と、どうにも上手くやる事が出来ない。応えようとするのだが、その方向性が違い、理解されない。結果として自己中心的な、身勝手な人物と受け止められてしまう……そんな部分は自分にもあり、だからこそ、もどかしくも思いつつも共感する所はあります。そして、そうした人物を肯定的に捉える物語は悪くはないと思うのですが……今ひとつ、踏み込みが足りない感じで、物足りない、と言うか焦点が定まらない感じがありました。
　原作にはない和雄の妻を登場させ、夫婦の物語としたせいもあるのかも知れません……夫婦の話とするなら、少年たちのエピソードを整理してもよかったでしょう――でも、そうすると別の物語になってしまうのか……

　和雄を演じた東出昌大は、その持ち味のぼんやりした感じがいい味を出していると思います――ただ、自己中男、と言う役が、私生活のスキャンダルと被って見えてしまうのには……これは本人的もどうだったのか、と思いました。
　奈緒は、最早、かつての蒼井優のような存在で、相変わらず巧く、引く手数多なのにも納得です。でも、奈緒は、これで今年５本目の映画です。いかに人気とは言え、これはさすがに出過ぎのように感じてしまいました。　
　

　（２０２１年　１０月　９日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

斎藤久志

　■出演

　工藤和雄　・・・　東出昌大

　工藤純子　・・・　奈緒

　小泉彰　・・・　Ｋａｙａ

　高田弘斗　・・・　林裕太

（その他のキャスト）
　大東駿介　　三根有葵　　利重剛　　クノ真季子　　室井滋

　■コピー

心の震えを感じながら、
僕たちは、駆けだそうとしている。

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