これは、俳優、有村架純と志尊淳がコロナ禍に見舞われた日本の職場の現状をレポートするドキュメンタリー。
　監督を「さんかく窓の外側は夜」の森ガキ侑大が務めています。

　２０２０年、新型コロナウィルスの感染拡大により、製作準備中だった映画「保育士Ｔ」が中止となった有村架純と志尊淳は、保育士や農業といった職業に従事している人々を取材し、リモートでは出来ない、そこにいなければできない仕事の価値を再認識していくが……

　この映画ですが、映画「保育士Ｔ」の製作中止により、スケジュールが空白となった人気俳優２人と映画監督を、言葉は悪いのですが「使い回した」ものです。
　保育士Ｔのモデルとなった保育士のてぃ先生との対談、有村架純と志尊淳の保育士体験などは、映画製作の準備として行われたものでしょう。このクラスの人気俳優を地味な社会派ドキュメンタリーに起用する事など、コロナ禍でもなければ出来ようもない訳で、その狙いは面白いと言えます。
　ただ、それならそれで保育士のてぃ先生のドキュメンタリーとすればよかったものの、映画は、取材対象を農家からホストクラブ店長、風俗嬢まで広げてしまい、焦点がぼやけたものになってしまいました。また、有村架純と志尊淳が実際に話を聞くのは限られた対象だけで、多くは監督らスタッフのみで対応しているのも、肩透かしをされた気分です。
　しかも、中盤以降で、孤児院を取材し、就職して孤児院から旅立つ姿を感動的に描いて見せる……と言う展開は完全に狙いから離れてしまっているように思いました。
　また、取材を通じて得られた経験を元に、有村架純と志尊淳のふたりが語る言葉にしても、結論が曖昧で、何処か空疎に感じてしまいました。
　
　勿論、コロナ禍に見舞われた東京と、そこに暮らし、影響を受けた人々の言葉は、確かに記録するに値する意義はあるでしょう。
　だが、連日、テレビなどのメディアでも報じられた類似の内容を超えるものではなく、１本の映画としてもまとまったものとなっていない印象です。　
　

　（２０２１年　１０月　９日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

森ガキ侑大

　■出演

有村架純　　志尊淳

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