レミニセンス

　これは、「ＴＥＮＥＴ　テネット」のクリストファー・ノーラン監督の弟で、「インターステラー」の脚本を務めたジョナサン・ノーランが製作したＳＦサスペンス。監督は、「ウェスト・ワールド」のリサ・ジョイ。
　出演は、「グレイテスト・ショーマン」でも共演のヒュー・ジャックマンとレベッカ・ファーガソン。

　地球温暖化により海面が上昇し、都市が海に沈み、残された土地と資源を奪い合った戦争後の世界。人々は、未来に希望を持てず、過去の思い出に耽るようになっていた。
　そんなフロリダの街で、戦時中の尋問装置を応用して人々に記憶を再体験させる“記憶屋”のニックは、ある日、鍵をなくした美女。メイの依頼を引き受ける。メイの記憶の中、ステージで歌う彼女の歌に魅了されたニックは恋に落ちるが、それから数ヶ月後、突如メイは姿を消してしまう。
　そんなメイとの思い出に浸るばかりの日々を過ごすようになってしまったニックだが、ある日、検察の捜査に協力して麻薬密売人の記憶を引き出している最中にメイの姿を見つけて……

　この映画、気候変動による海面上昇で水没したフロリダ、と言う舞台設定はなかなかのものですし、水没により地価が高騰、不動産業者と庶民の格差が広がった格差社会、と言うを設定も、現実の格差社会を投影していて悪くないと思います。
　そうした設定はよいのですが、水浸しの荒廃した都市、と言うビジュアルは、何処か「ブレード・ランナー」のようでもあり、特色となっている記憶潜入装置も、そのアイデアからして、「ブレイン・ストーム」や「アルタード・ステーツ」など、いずれも’８０年代ＳＦを思わせる、いささか古臭いもの。そして、そんな舞台で描かれるのは、これまた古臭いフィルム・ノワール風のメロドラマ……記憶再現装置の設定も曖昧――言い方を変えるとご都合主義的な小道具――で、物語上活かされているとは言えず、物語の中心となるのは、中年男が運命の女<ファム・ファタール>を追う悲恋、とあっては、何時のドラマだ、と言いたくなります――これは、古い革袋に入れられた古い酒、と言う感じなのです。

　映画としては、なかなか見せるカットもあるし、ヒュー・ジャックマンは中年男の渋さと弱さをしっかり見せています。特筆すべきはやはり、レベッカ・ファーガソンで、熟女の魅力たっぷりで、正にファム・ファタールとして文句なしでしょう。
　閉塞感の中、悲劇に終わるフィルム・ノワールの世界を逆手に取り、「現在」ではなく、「過去と未来」に希望を見せた結末も悪くはないものの、この、「２１世紀のフィルム・ノワール」と言う古臭さを、受入れられるかどうかで評価が分かれるように思います。


ＰＳ
　予告編で、ニックを「記憶潜入エージェント」と説明、水没した街の陰謀を解き明かす……と紹介しているのは、さすがに違うんじゃないかなぁ……映画を観た後だと、まるで別の映画を語っているようにしか思えません。　
　

　（２０２１年　９月２２日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

リサ・ジョイ

　■出演

ニック　・・・　ヒュー・ジャックマン
　
メイ　　・・・　レベッカ・ファーガソン

（その他のキャスト）
　タンディ・ニュートン　　ダニエル・ウー　　クリフ・カーティス

　■コピー

これから、アナタの記憶に、潜入する。

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