スイング・ステート

　これは、「バイス」のスティーヴ・カレルが米民主党の選挙参謀を演じる、ポリティカル・コメディ。共演は、「ピーター・ラビット」のローズ・バーン。
　監督は、スタントマン出身、風刺ニュース番組の司会で人気を博したジョン・スチュワートで、これが映画２作目となります。　

　２０１６年、米大統領選でトランプに大敗した民主党陣営の選挙参謀、ゲイリー・ジマー。
　共和党が握る農村部の票を取り戻す秘策として、ウィスコンシン州の田舎町、ディアラーケン町の町議会でのYoutube動画で話題となっているジャック・ヘイスティングス元海兵隊大佐を、次期ディアラーケン町長選挙に民主党公認候補として出馬させようと目論み、ディアラーケンに乗り込んだ。だが、共和党も保守的な現町長を当選させようと選挙参謀のフェイス・ブルースターを送り込み、田舎町の町長選挙は民主党と共和党の代理戦争となって、全米の注目を集める事になり……

　これは、アメリカ映画ではよくある政治風刺劇。映画の建て付けとしては、スモールタウンコメディ――都会暮らしの主人公が、古き良きアメリカを残す田舎町で気づきを得る、と言うもの――なのですが、今や田舎町に、夢や希望もありはしません。老いて疲弊し、錆び付いた現実を背景に繰り広げられる物語は、ありきたりな設定と展開の裏に思わぬドンデン返しを仕込んでいました。これにはさすがに驚きましたし、それによってえぐり出された問題の根の深さにも考えさせられます。
　もっとも、この映画がやり玉に挙げる、「選挙」と言う民主主義においてなくてはならない一方で、政治における諸悪の根源にもなっている問題に刃を向ける事に、やはり力みもあったのでしょうか？これは、さすがに政治風刺作品としても内容の深刻さに加えて毒が強く、スティーブ・カレルの芸達者ぶりを以てしても、単純に面白がるには内容が重いです。

　そして、この映画の最大の見所はエンドロールにあります。米選挙管理委員を務めた事もある政治ジャーナリストの言葉――映画の中で行われた事は出来るし、現実にはもっと悪い形で起きていると言うのには考えさせられるし、最後に、「それでは選挙管理委員会は機能していないのか？」と言う問いに、「Ｙｅｓ．」と言う答えが返されたのには、最早、乾いた笑いしか出ませんでした。


ＰＳ
　ネタバレになってしまいますが、選挙の為に集められた募金や献金が、選挙に使われず、個人や企業に流れているのが現実であり、その金額は大統領選挙にもなれば、数十億ドルにもなるのだと言うのには、最早言葉もありません……
　

　（２０２１年　９月１９日　Ｋｉｎｏシネマみなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ジョン・スチュワート

　■出演

ゲイリー・ジマー　・・・　スティーヴ・カレル

ジャック・ヘイスティングス　・・・　クリス・クーパー

フェイス・ブルースター　・・・　ローズ・バーン

（その他のキャスト）
　マッケンジー・デイヴィス　　トファー・グレイス　　ナターシャ・リオン

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