これは、マンガ大賞２０１５など数々の漫画賞を受賞した田島列島の同題マンガを「横道世之介」の沖田修一監督が実写映画化したもの。
　出演は、「羊と鋼の森」の上白石萌歌、「町田くんの世界」の細田佳央太。他に、豊川悦司、千葉雄大、斉藤由貴。

　高校２年の夏。水泳部の朔田美波は、書道部の門司昭平と好きなアニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」の話題で意気投合する。
　書道家の門司家で、見覚えのあるお札を見つけた美波は、それをきっかけに美波が幼い頃に母と離婚後、行方が分からなくなった実の父を探す事を決意、探偵をしているという昭平の兄・明大に協力してもらい、実の父である藻谷友充を探し当てる。
　美波は今の家族には内緒で友充に会いに行くが……

　この映画、冒頭はアニメで始まり、ちょっと戸惑います（「別の劇場に入ってしまったのか？」と思った程）――この劇中アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」、作りが妙にいいのに感心しますが、いささか長い。
　その後も、この映画、フィックスのカメラによる長回しが続きます。物語が動き出さないのにもどかしい思いもさせられますが、それも上白石萌歌が演じる美波が動き始めるまで。彼女が動き始める事で、この映画はガラリと変わります。
　そんな、正に映画の中心に位置する本作の上白石萌歌は、少女の魅力全開。伸びやかな肢体が発するセクシャルさを、輝くような笑顔が覆い、ただただ可愛いだけ。これはもう奇跡みたいなものでしょう――私と同年代の多くが「こんな娘が欲しい」と思ってしまうほど。
　この上白石萌歌を眩しい夏の日差しの下でフィルムに焼き付けた、と言うだけで、この映画の価値は充分にあります。
　また、キャストの中で異彩を放つのが、美波の実父を演じた豊川悦司。豊川悦司と言う俳優の持つ、剥き出しの野性味、それを本作ではギャグとして見せるのも面白い所。

　映画としても沖田修一作品ならではの、性善説から来る穏やかさと緩さが生み出す空気感が、少女の夏休みのささやかな冒険、と言う物語には合っているように思いました。
　社会的なテーマも、重厚なドラマも、負の感情も削ぎ落とし、笑える部分はありますが、それも大笑いするようなものではありません。くすぐられるような笑いに終始する、穏やかで起伏のない物語ですが、それも含めてのらしさでしょう。
　これは、そんな幸せな時間を与えてくれる映画だと思います。
　

　（２０２１年　８月２１日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

沖田修一

　■出演

　朔田美波　・・・　上白石萌歌

　門司昭平　・・・　細田佳央太
　門司明大　・・・　千葉雄大

　藁谷友充　・・・　豊川悦司

（その他のキャスト）
　古舘寛治　　斉藤由貴　　高橋源一郎　　湯川ひな　　坂口辰平　　兵藤公美　　品川徹
　きたろう

（劇中アニメ「魔法左官少女バッファローＫＯＴＥＫＯ」声優）　
　富田美憂　　浪川大輔　　櫻井孝宏　　鈴木達央　　速水奨

　■コピー

僕らの夏が待ってる。

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