サマーフィルム　　　
　　　　にのって

　これは、元・乃木坂４６の伊藤万理華主演の青春映画。共演は「君が世界のはじまり」の金子大地。

　高校３年生で映画部部員のハダシは、勝新太郎の「座頭市」をこよなく愛する時代劇オタク。しかし、キラキラ恋愛映画ばかりを作りたがる映画部では時代劇を作れず、鬱憤を溜め込んでいた。
　そんなある日、目の前にハダシがイメージする若侍役にぴったりな凛太郎が現れる。強引に凛太郎を引っ張り込んだハダシは、親友の天文部員、ビート板を参謀役に、文化祭でのゲリラ上映を目指して時代劇「武士の青春」を作り始める。
　青春の全てを賭けた映画作りの中で、ハダシは凛太郎に恋心を抱き始めるが、凛太郎には秘密があった……

　主演の伊藤万理華は、乃木坂４６のメンバーとしては異色のかわいい系で、ちょっと高畑充希に似ています。現在２５歳ですが、女子高生を演じて違和感がありません……と言うよりも、ドタバタと歩き、大声ではしゃぎ、アイドル然とした可愛さを見せない辺り、むしろリアルな女子高生に見えてしまったほど。その一方で、最後に見せる殺陣は本格的です。
　他の出演者も、これからが期待される若手で固めており、非常に若々しい、と言うか新鮮な感じがします。
　これは、本作が映画デビューとなる松本壮史監督も同様で、映画の作りもまた同様――これは同時に、作り込み不足の粗を随所に感じる、と言う事でもあるのですが……

　映画の内容は、時代劇好きな女子高生の一夏の恋。胸キュンして、チャンバラで告白して、しかも恋した相手はタイムトラベラー……って、何の事だか判らないでしょうが、これは、そう言う映画なのだから仕方ありません。
　そもそも、映画作りを描く映画は大抵が面白いのです。モノ作りの面白さに加え、その対象が、映画好きならば関心を抱かずにはいられない映画ともなれば当然でしょう。
　この映画は、それに加え、少女の一夏のラブストリーを切なく描きます……しかも、娯楽としては衰退している映画、その中でも危機に瀕している時代劇を題材とし、更に、時代劇映画が失われた未来からのタイムトラベラーを恋愛相手に据え、去って行く想い人への恋心を合わせて、消えゆくもの、そして去って行くものへの切なさを盛り込みました。
　そして、キラキラ映画が告白しなければ終われないように、時代劇は勝負をつけなければ終われない。
　悲しくても、辛くても、その決着はキチンとつけなければならないのです。それが、未来を切り拓くと信じて……と言うクライマックス――切り結ぶハダシと凛太郎の剣戟は、紛れもないラブシーンとなっていました。
　これは傑作です。ひょっしたら、これは今年の一番になるかも知れません。　
　

　（２０２１年　８月１１日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

松本壮史

　■出演

ハダシ　・・・　伊藤万理華

凛太郎　・・・　金子大地

ビート板　・・・　河合優実
ブルーハワイ　・・・　祷キララ

（その他のキャスト）
　小日向星一　　池田永吉　　篠田諒　　甲田まひる　　ゆうたろう　　篠原悠伸　　板橋駿谷

　■コピー

私たちの青春は、傑作だ。

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