ＬＥＴ　ＨＩＭ　ＧＯ
すべてが変わった日

　これは、ダイアン・レイン、ケビン・コスナー共演で製作された、１９６０年代を舞台にした西部劇テイストのスリラー。
　ラリー・ワトソンの小説「Ｌｅｔ　Ｈｉｍ　Ｇｏ」を原作に、ファッション業界出身の異色の映画監督、トーマス・ベズーチャが監督・脚本を務めた。共演は、「ファントム・スレッド」のレスリー・マンヴィル。

　モンタナ州の牧場で馬の調教を生業とする元保安官のジョージ・ブラックリッジと妻マーガレットは、落馬事故で息子のジェームズを失う。
　３年後、未亡人として幼い息子のジミーを育てていた義理の娘のローナが、流れ者のドニー・ウィボーイと再婚。暴力的なドニーがローナとジミーを連れてノースダコタ州の実家に里帰りしたと知ったマーガレットは、義理の娘と孫を取り戻すことを決意する。
　しかしジョージとマーガレットを待ち受けていたのは、暴力と支配欲で一族を仕切る女家長、ブランチ・ウィボーイだった……

　この映画、とんでもないハードボイルド映画で、説明的な台詞が殆どありません。物語は平和な牧場の朝に始まり、息子の死を描くのですが、その説明も一切ないのです。そして、一気に物語を３年すっ飛ばし、更に、ローナの結婚相手のドニーがどんな男なのかの説明もしません。
　でも、本来映画とはこうしたものなのです。限られた時間の中で物語を描く以上、省かれる部分があるのは当然で、それは観客に想像させてでも理解させなきゃいけない……理解度の低い観客に迎合している最近の映画の風潮には迎合しない、とするトーマス・ベズーチャ監督の高い志を感じる部分です。

　そんな寡黙なハードボイルドな物語は、正に西部劇。町を仕切る大地主一家が金と暴力で保安官さえ従わせ、その中で、主人公が、どれだけ自分の正義を貫けるか……と言うものになります。
　ただ、この映画、主人公はケビン・コスナー演じるジョージではなく、ダイアン・レインが演じるマーガレットなのです。そこが、この映画が２１世紀の映画である所以でしょう。
　だからこそ、敵役も、強権的な女家長のブランチとなります。
　双方、決して己を曲げません。ただし、その生き方が光と影、価値観が正反対であるだけ。そんな、ある意味似たもの同士の「厄介な女」が激突する映画は、最後まで目が離せないものでした。　
　

　（２０２１年　８月１１日　Ｋｉｎｏシネマ横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

トーマス・ベズーチャ

　■出演

　ジョージ・ブラックリッジ　・・・　ケビン・コスナー
　マーガレット・ブラックリッジ　・・・　ダイアン・レイン

　ローナ・ブラックリッジ　・・・　ケイリー・カーター

　ドニー・ウィボーイ　・・・　ウィル・ブリテン

　ブランチ・ウィボーイ　・・・　レスリー・マンヴィル

（その他のキャスト）
　ジェフリー・ドノヴァン　　ブーブー・スチュワート

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