ワイルド・スピード
ジェット・ブレイク

　これは、全世界累計興収５０００億円突破の人気カーアクションシリーズの９作目――シリーズとしては１０作目なのですが、前作「ワイルド・スピード／スーパーコンボ」は、主人公であるドムが登場しないスピンオフと言う事でカウントされないようです。
　監督は、６作目の「ワイルド・スピード　ＥＵＲＯ　ＭＩＳＳＩＯＮ」のジャスティン・リン。

　レティと幼い息子のブライアンと静かに暮らしていたドムだったが、この平穏は続かなかった。
　ファミリー＜仲間＞のメンバーから、かつて共に戦った政府情報機関の“Ｍｒ．ノーバーディ”の乗った輸送機が墜落、搭載されていた極秘のデバイス「アリエス」を回収する任務に加わってほしいと頼まれる。敵対勢力が支配する紛争地域なので政府や軍は動けず、彼らに声がかけられたのだ。
　ところが、「アリエス」を回収して追跡を振り切って脱出する直前に目の前に現れたのはドムの弟、ジェイコブ。彼は「アリエス」を奪って姿を消した――
　ジェイコブは、「アリエス」による世界支配を目論む某国の独裁者の御曹司、オットーの配下となっていたのだ。更にオットーは、ドムの宿敵・サイファーの身柄も押さえて協力をさせていたが……

　２００１年にスタートした人気アクション「ワイルド・スピード」は、当初のカーアクションから随分と様変わりしてしまい、今や、クルマを武器に世界の危機を救う民間エージェント、と言うヘンテコな内容となってしまいました。
　映画の中で、登場人物自身が「（クルマで）空も飛んだ、戦車とも戦った、潜水艦もやっつけた――これ以上何がある？」と言うのだけど、それでも、そんなこれまでを超えて来るのがこのシリーズ。
　今回も冒頭の「アリエス」回収ミッションから、ド迫力のアクションの連続。最早、荒唐無稽もいい所なのですが、それでも、この滅茶苦茶さこそが「ワイルド・スピード」なのです。

　超強力な電磁石をクルマに積んでは知らせながら作動させると、クルマが過去にいた位置に鉄がすっ飛んで来る……と言う、物理学的にどう考えてもおかしな描写に加え、最後には、中古のポンティアック・フィエロにロケットエンジンを括り付けて宇宙に行ってしまうのです。軌道計算を紙と鉛筆でやっているとか、高度８０kmを人工衛星が周回してるとか、いちいちツッコムのも無駄にしか思えません。

　そして、いつの間にか、孤独なアウトローで、クルマとスピードだけを拠り所にしていたドムは、ファミリー＜仲間＞を愛する一家の家長となっています……かつての好敵手も、殴り合って和解する、と言うのは、殆ど「少年ジャンプ」の世界で、本作でもジェイコブとは最後に和解しました。
　デッカードとも和解したので、本作では、デッカードに殺されたはずのハンも、実は死んでいなかった、として再登場しています。
　そんな行き当たりばったりのような展開のこのシリーズ、正にアメコミを映画でやっているようなもの。
　このシリーズ、何処まで続くのでしょうか……？
　

　（２０２１年　８月　６日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本・原案

ジャスティン・リン

　■出演

　ドミニク・トレット　・・・　ヴィン・ディーゼル

　レティ　・・・　ミシェル・ロドリゲス

　ローマン　・・・　タイリース・ギブソン

　サイファー　・・・　シャーリーズ・セロン

（その他のキャスト）
　クリス・“リュダクリス”ブリッジス　ナタリー・エマニュエル　　サン・カン　　ヘレン・ミレン　　カーディ・Ｂ

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