復讐者たち

　これは、第二次大戦直後の知られざる実話を元に、ユダヤ人によるドイツ人への報復計画を描くサスペンス。
　出演は、「名もなき生涯」のアウグスト・ディール、「鑑定士と顔のない依頼人」のシルヴィア・フークス。監督・脚本は、「ザ・ゴーレム」のドロン・パズとヨアヴ・パズ。

　１９４５年、敗戦直後のドイツ。アウシュヴィッツから生還したユダヤ人マックスは、収容所で離ればなれになった妻子が殺されたことを知る。
　復讐心を煮えたぎらせたマックスは、ナチス残党を密かに処刑している英軍のユダヤ人部隊と行動を共にするようになる。
　その中で、一般市民を含めた過激な報復を行うユダヤ人組織“ナカム”の存在を知り、マックスは組織への潜入を図るが……

　数多あるホロコーストものの映画の中で、本作は、終戦直後のドイツを描き、生き延びたユダヤ人によるドイツ人への報復計画を描いている、と言うのが特色となっています。
　肉親を殺されたドイツ国内のユダヤ人がドイツ人への直接報復を意図する一方、英国内のユダヤ人は、後にイスラエルとなるユダヤ人の安住の地の建国に向け、国際世論を味方につける意味でも、大規模な復讐をすべきではないとして、計画を阻止しようとする……同じユダヤ人でも、想いも、立ち位置も異なるのです。
　それは、プロローグとエピローグで語られる「想像して欲しい。肉親が殺されたら、あなたはどうするのか」と言う問いかけに呼応するもの――同胞が殺されたのと、家族が殺されたのは、同じではないのだ、と……

　映画は、そこに「死神を閉じ込めた袋」と言う、寓話的なアイテムを登場させて、サスペンスを盛り上げます。その袋の中の“死神”を解放するかどうかに、マックスの選択を象徴させる――これは物語としては、よいアイデアではあると思いますが、物語の寓意性を高めてしまったのは問題かも知れません。
　そして、マックスが選んだ「安息の地で幸せに暮らすこと」が、ナチスの迫害に対するユダヤ人としての最大の復讐である、と言う結論は、真っ当な正論ではあるのですが――そんな結論を選んだユダヤ人が、彼らの安息の地であるパレスチナで、何を行ったのか。
　復讐の為に「生きる事」を選んだユダヤ人によるイスラエルの建国は、住み慣れた土地や、家族を奪われた新たな復讐者を生む事になったのです。そんな、「この後」に起きた事を考えると、何とも複雑な思いにさせられました。　
　

　（２０２１年　７月２４日　川崎チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ドロン・パズ　　ヨアヴ・パズ

　■出演

　マックス　・・・　アウグスト・ディール

（その他のキャスト）
　シルビア・フークス　　マイケル・アローニ　　イーシャイ・ゴーラン　　ニコライ・キンスキー　　ミルトン・ウェルシュ　　オズ・ゼハヴィ
　ヨエル・ローゼンキール　　イーシャイ・ゴーラン

　■コピー

ホロコーストを生き延びたユダヤ人

［戻る］