これは、ファストファッション界のカリスマ経営者の栄光と転落を軸に、その周辺人物の織り成す悲喜劇を描く、マイケル・ウィンターボトム監督のブラックエンターテインメント。
　主演は、イギリスのカリスマ的コメディ俳優、スティーヴ・クーガンで、マイケル・ウィンターボトム監督と組むのは、これで７度目となります。

　ギリシャ・ミコノス島。ファストファッションのブランド経営で財を成したリチャード・マクリディの誕生日を祝うため、リチャードは家族を集め、豪華なパーティーの準備を進めて行く。
　脱税疑惑や縫製工場の労働問題を追及されているリチャードは、ド派手にショーアップされたこのイベントでかつての威光を取り戻す事を目論むのだが、湯水のように金を使い、傲慢に振る舞うリチャードと、周囲の人々の間には不協和音が生じていて……

　マイケル・ウィンターボトム監督作品にはこれまであまり縁がなく、記憶にあるのは「天使が消えた街」くらい。そんな状態なので映画は特に先入観もなく観ました。
　映画は、誕生パーティーの準備から当日までの数日間を主となる時間軸にしつつ、回想シーンを挿入して、“グリード（強欲）”と呼ばれる男の人生を描いて行く、と言うもの。いささか込み入った構成だし、登場人物も多いのですが、何れも極端なキャラクターを与えられているせいもあって、混乱するような事はないのは巧さと言っていいように思いました。

　主人公のリチャードの強欲・豪腕ぶりや、その周辺に群がる虚飾まみれの成り上がり富裕層の滑稽さは、ブラックコメディとしては期待通りの内容で、そんな彼らがシリア難民相手に行う偽善的行為には「そこまで描くか」と思わされます。ただ、ファストファッション業界の抱える途上国からの労働搾取や低賃金・長時間労働など、社会問題については、通り一遍に触れた感じで、タイトルから連想されるような「業界の隠された真実」と言う程のインパクトはありませんでした。この辺りは、もっと物語に絡めてもよかったのではないでしょうか？実際、それこそが、クライマックスとなる惨劇の引き金でもあったのですから……

　そんなテーマに絡んだ内容だけでなく、ミコノス島と言う舞台、作られた闘技場と言う設定などにも、盛り込まれたものはあれこれ多そうなのに、それを映画として活かし切れず、ただ、道を誤った男の頂点からの転落を描いて終わってしまった感があるのも勿体ない感じがしました。
　

　（２０２１年　６月２０日　Ｋｉｎｏシネマみなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

マイケル・ウィンターボトム

　■出演

リチャード・マクリディ　・・・　スティーヴ・クーガン

サマンサ　・・・　アイラ・フィッシャー
フィン　・・・　エイサ・バターフィールド

（その他のキャスト）
　デイヴィッド・ミッチェル　　ディニータ・ゴヒル　　ソフィー・クックソン　　ジョニー・スウィート　　アシム・チョードリー　　シャーリー・ヘンダーソン

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