映画大好きポンポさん

　これは、杉谷庄吾【人間プラモ】による同題の人気マンガをアニメ化したもの。原作マンガは、当初、イラスト投稿サイト「ｐｉｘｉｖ」に投稿されたものだそうです。
　監督・脚本を「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」の平尾隆之。

　映画の都”ニャリウッド”で、映画スタジオ「ペーターゼンフィルム」の敏腕プロデューサー・ポンポさんのアシスタントを務める映画オタクの青年、ジーン。
　そんなジーンに、ポンポさんは新作映画「ＭＡＲＩＮＥ」の予告編集を一任する。作った予告編は大好評で、ジーンに映画の才を見たポンポさんは、新作映画「ＭＥＩＳＴＥＲ」の脚本をジーンに読ませ、その的確な着眼点を認めると、こう言った。
　「映画主演は名優マーティン・ブラドック。ヒロインは新人のナタリー・ウッドワード。この映画をあなたが監督するのよ」。
　驚愕するジーンだったが、ポンポさんの尽力もあって映画撮影は順調に進んで……

　これは映画愛と、もの作りの情熱に溢れ、本当に面白く、感動します――まあ、映画を作る映画と言うのは、映画好きにとって大抵面白いのですが……
　
　この映画、映画とは一瞬の輝きを捉える事、と言う、正に極意のようなアプローチから入り、映画作りを最初っから最後まで描いて行きます。時には「女優が魅力的に映っていれば成功したようなもの」と身も蓋もない事を言ったりし、ロケでのトラブルやアドリブ、そしてチャンスを逃さない姿勢、と撮影の面白さを描いたら、クライマックスとなるのが編集作業……これを、映画作りの最重要点、と置くのが、映画好きの心を捉える所でしょう。
　その編集作業の中で、作品に向き合い、脚本を書いたポンポさんの物語だった「ＭＥＩＳＴＥＲ」が、ジーンの映画になって行く、と言う展開にはぞくぞくするし、追加撮影を認めなければ「ボクの映画じゃない」とジーンが言うのは、鳥肌もののシーンでした。

　確かに、ここに描かれる映画作りは、往年のプロセスであり、現在のハリウッドのものではないと思います。また、現実の映画界は、夢破れて挫折する者、去って行く者もいれば、映画を食い物にする悪党もいるドロドロした世界で、綺麗事ばかりじゃないでしょう……でも、映画好きが信じている、「映画こそ我が人生」と言う“夢”を見せられては文句のつけようもありません。
　劇中劇である「ＭＥＩＳＴＥＲ」も、映画の共鳴して輝きを見せているし、“編集”を見せ場とした映画だけに、テンポの繋がりも洗練されており、本作もこれだけの内容で「９０分」で完結するのです。
　これは文句なし、映画好きなら観て損のない１本だと思います。


ＰＳ
　それにしても、ジーンが監督に抜擢される理由が、「目に輝きがないから」。
　「満たされた人間と言うのはモノの考え方が浅くなる。
　　幸福は想像の敵。
　　現実から逃げた人間は自分の中に自分だけの世界を作る。その社会と切り離された精神世界の広さと深さこそがクリエイターとしての潜在能力の大きさだと私は確信している」
　……確かに、一面の真理とは思うが、さすがに偏っているのではないでしょうか？
　

　（２０２１年　６月　６日　ＴＯＨＯシネマズ川崎にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

平尾隆之

　■出演

ジーン・フィニ　・・・　清水尋也

ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット　・・・　小原好美

ナタリー・ウッドワード　・・・　大谷凜香
ミスティア　・・・　加隈亜衣
マーティン・ブラドッグ　・・・　大塚明夫

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幸福は想像の敵

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