愛のコリーダ
修復版

　これは、愛憎の果てに男性器を切り取るという昭和の日本を震撼させた「阿部定事件」を大胆な性描写と圧倒的映像美で描き切った大島渚監督最大の問題作。出演は、松田英子に藤竜也。
　大胆な性描写の為、撮影済のフィルムを現像せぬままフランスに送って現像・編集して製作されました。映画は１９７６年に公開されましたが、日本公開においては多くの修正と一部シーンのカットがあり、映画シナリオとスチルを掲載した書籍は、わいせつ物に当たるとして、大島渚がわいせつ物頒布罪で起訴されています。（後に無罪）
　今回は本編ノーカット、性器にボカシ処理と言う再編集版の「愛のコリーダ２０００」を、２Ｋデジタル化したものとなります。

　昭和１１年。東京・中野の料亭の主人、吉蔵と仲居の定が出逢い、たちまち惹かれあう。待合を転々とし、昼夜を問わず体を求めあう二人の愛はエスカレートして……

　この映画を製作するに当たり、大島渚監督は、阿部定の予審調書にも目を通し、彼女の行為を生んだものに迫ろうとしたそうです。
　その一方で、映画は決して再現ドキュメンタリーの体を為してはいません……阿部定の生まれや育ち、吉蔵と暮らした日々の日常などは細かく描写されませんし、愛憎をエスカレートさせるうちにふたりが彫った入れ墨も省かれています。
　描かれるのは、そんなドラマではなく、性交を通じて、ふたりが情を交わす様……定の愛が、性欲に特化する一方で、吉蔵は、度量を見せてその全てを受入れようとする……そんな“男”がいたのが昭和と言う時代だったのだ、とする時代性の描写もまた見事ではあります。

　全篇情交シーンとなる本作ですが、公開された１９７６年当時ならいざ知らず、アダルトビデオ登場後の現在では、内容としては衝撃的、と言うものではありません……ただし、それでも、陰毛さえ画面には出せなかった１９７６年では、修正では追いつかず、カットされたシーンがある、と言うのにも納得です。
　そうした時代性を感じる本作ですが、同時にこんな映画はもう撮れないのだろうな、と思います……アダルトビデオさえ、出演強要が問題視され、撮影後に作品がお蔵入りになったり、訴えられたりしているのが現実。映画ともなれば、最早そんな危ない橋を渡ろうとする製作者は最早いないのではないでしょうか。

　「愛のコリーダ」のこれまでの４５年……それに映画が、映像が、性と向き合って来た歴史を感じた１本でした。　
　

　（２０２１年　５月　６日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

大島渚

　■出演

定　 　・・・　松田英子
吉蔵　・・・　藤竜也

（その他のキャスト）
　中島葵　　芹明香　　阿部マリ子　　三星東美　　殿山泰司　　藤ひろ子　　白石奈緒美　　青木真知子　　東祐里子　　安田清美　　南黎
　堀小美吉　　岡田京子　　松廼家喜久平　　松井康子　　九重京司　　富山加津江　　福原ひとみ　　野田真吉　　小林加奈枝　　小山明子

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