これは、「ＴＳＵＴＡＹＡ　ＣＲＥＡＴＯＲ’ｓ　ＰＲＯＧＲＡＭ　ＦＩＬＭ２０１５」で準グランプリを受賞した人間ドラマ。
　木村大作、降旗康男、原田眞人、成島出といった名だたる監督のもとで助監督を務めてきた加藤卓哉の監督デビュー作となります。
　主演は、「火口のふたり」の瀧内公美。

　青山のアパレルショップ店長の真知子。一見、華やかな世界だが、店の経営は苦しく、客や上層部は、年下のカリスマ店員・さくらをちやほやするなど、真知子は不満の燻る満たされない日々を過ごしていた。
　ある日、真知子は、ＳＮＳに裏アカウントで際どい写真を投稿。思わぬ反響に快感を覚える中、フォロワーのひとり、“ゆーと”と一度限りの関係を持ってしまい……

　この物語、いささか幼稚な印象を受けました。
　確かに、華やかな都会の暮らしの背後にある孤独を癒やし、心の空白を満たす承認欲求を満たすのが日常とは別の顔、と言う着目点は悪くないのですが、主人公の真知子は、都会に出て来たばかりの若い娘ではなく、地位もキャリアもある女性なのですから、もう少し踏み込んだ描写が欲しかった所。そして、そんな彼女が惹かれる男の、「何事にも生きている実感がない」と言う設定は、どうにも作り上げた感が強く、失笑さえ覚えます。
　表の世界に不満があって始めた裏アカウントでの承認欲求が、表の世界で認められても続いていく辺りも、物語の構成的に疑問を覚えた所――むしろ、表の世界で認められるようになると、裏アカの顔が足を引っ張るような対照的な構図にすべき所ではないでしょうか？
　まぁ、こうした問題は、この物語が数年前に作られたもの（２０１５年にコンテストに応募された）なので、今のネットやＳＮＳを巡る状況からするといささか古くなっているせいでもあるかも知れませんが……

　そんな映画ですが、清冽さがありながら、ここまで脱げる女優として、日本では貴重な存在の瀧内公美の存在が、何とかこの映画を最後まで保たせた感じです――濃厚な濡れ場のシーンには、よくこれでＲ１５で済んだな、と思う程です。
　そんな、正に身体を張った瀧内公美に応える意味でも、映画にも頑張って欲しかった所ですが……　
　

　（２０２１年　４月　３日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

加藤卓哉

　■出演

伊藤真知子　・・・　瀧内公美

ゆーと／原島努　・・・　神尾楓珠

（その他のキャスト）
　市川知宏　　SUMIRE　　神戸浩　　松浦祐也　　仁科貴　　ふせえり　　田中要次

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