靴ひも

　これは、発達障害の息子と、彼を一度は捨てた父の関係を描く人間ドラマ。
　監督は、イスラエルの映画・テレビドラマ界で長年活躍するヤコブ・ゴールドヴァッサー。

　自動車整備工場を営むルーベンは、ある日、数十年前に別れた妻が事故死した事を知らされる、残された３８歳の息子ガディには、発達障害があり、一人暮らしが困難な状態。彼のケアを担当するソーシャルワーカーのイレナは、ガディを受け入れてくれる施設が見つかるまでの間、ルーベンに面倒を見て欲しい、とルーベンに訴える。そして、３６年ぶりに息子のガディと同居する事になったルーベンだが、ガディは、食べ物の配置から眠る前のルーティンまで生活習慣のこだわりが強く、長年疎遠だったルーベンは困惑するばかり。
　やがて2人がようやく打ち解けた頃、ルーベンは末期の腎不全と診断され、人工透析が必要になるが……

　この映画、実話を元にしていると言います。
　それ故に、ガディの描写などの細部や、個々のエピソードはリアルなのでしょうけれど、その一方で、物語の運び方がどうにも不自然に思えます――これは、実話に基づく映画が時折やってしまう事で、事実に基づくのだから説明を省くのではなく、映画としては、物語の展開に説得力を持たせる描写は欲しいものです。
　例えば、長年のひとり暮らしのルーベンが、実の息子とは言え、障害を抱える同居人をたちまちのうちに受入れて、ガディもそんな父親になついて行く、と言うのは、どうにも納得出来ない部分でしたし、ルーベンにガディを押しつけたイレナに、ルーベンが恋をする、と言う展開も唐突に感じます。

　クライマックスでもある腎移植のエピソードは感動的ではありますが、ここはむしろケン・ローチ流に、障害者を守る為の規則が、ひとつの命を奪ってしまう矛盾を描いてもよかったのではないでしょうか？
　魅力的であったろう、現実のエピソードを、感動を呼ぶ親子愛と、ありきたりのロマンスに収斂させてしまった映画は、いささか類型的なものに思えてしまいました。　
　

　（２０２０年　１２月１３日　Ｋｉｎｏシネマ横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督

ヤコブ・ゴールドヴァッサー

　■出演

　ガディ　・・・　ネボ・キムヒ

　ルーベン　・・・　ドヴ・グリックマン

　イレナ　・・・　エヴェリン・ハゴエル

（その他のキャスト）
　ヤフィット・アスリン　　エリ・エルトニオ　　オシュラット・インガシェット　　スヘル・ハダッド　　ドロール・ケレン　　
　アミール・ブシェリ　　イディット・テパーソン

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