ばるぼら

　これは、手塚治虫が１９７９年代に発表した成人向け漫画を、稲垣吾郎＆二階堂ふみのＷ主演で、手塚治虫の息子である監督が実写化したもの。
　撮影はクリストファー・ドイル、音楽は橋本一子と言う豪華な布陣で、共演は渋川清彦、石橋静河と演技巧者が揃いました。

　人気小説家・美倉洋介は、繁華街の地下通路で酔払った少女ばるぼらに出会い、彼女をつい自宅に連れ帰ってしまう。
　大酒飲みで自堕落な彼女を一度は追い出すものの、豊かな知識と、鋭いセンスを感じさせるばるぼらに、美倉は魅力を感じて、再び出会ったばるぼらを居候させるようになるが……

　これは、売れっ子小説家が、悪魔のような創作のミューズを拾う、と言う物語……手塚治虫の隠れた傑作とされる原作を大胆に脚色、美倉の抱えるクリエイターの苦悩と葛藤に父・手塚治虫のそれを重ねて描くなど、息子の手塚眞だから許されるであろう内容で見せる本作は、なかなか見応えがあります――人形や獣との性交から美倉を救い出すばるぼら、と言う描写の背後には、己の手を離れて一人歩きする偶像や、動物の擬人化と言う、自身の生み出したものに縛られる手塚治虫の内面の鬱屈を感じてしまうのです。
　音楽も印象的ですし、現在を写しながらも、妙に古びた印象を与える独特の世界を生み出すクリストファー・ドイルの撮影も本作の魅力でしょう。

　二階堂ふみは、稲垣吾郎と共に大胆な濡れ場を披露……終盤には、原作コミックでも最終的には削除された屍姦シーンも再現され、二階堂ふみは映画終盤はずっと全裸――出演シーンの１／５は裸なんじゃないかと思わせる脱ぎっぷりで、こうした部分も日本映画らしからぬものを感じます。

　惜しいのは、妙にこじんまりと収まったラストで、少なくともばるぼらの正体は示して欲しかった所――あの手塚治虫の創作の原動力に迫るものになり得た作品だけに、結果として原作漫画を超えられなかった映画は物足りなく思えました。　
　

　（２０２０年　１１月２６日　イオンシネマ座間にて）

（作品データ）

　■監督

手塚眞

　■出演

　美倉洋介　・・・　稲垣吾郎
　
　ばるぼら　・・・　二階堂ふみ

（その他のキャスト）
　渋川清彦　　石橋静河　　大谷亮介　　渡辺えり　　美波　　片山萌美　　ISSAY

　■コピー

狂気の果て。
　　　あれは、幻だったのだろうか――

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