ＴＨＥ　ＬＡＳＴ ＢＬＡＣＫＭＡＮ
ＩＮ　ＳＡＮＦＲＡＮＣＩＳＣＯ

　これは、２０１９年サンダンス映画祭で、監督賞と審査員特別賞をＷ受賞したヒューマンドラマ。
　監督のジョー・タルボットは、幼なじみで本作の主人公を演じるジミー・フェイルズの実体験を基に自身初の長編作品として作り上げました。

　近未来のサンフランシスコ。この街で生まれ育ったジミーは、祖父が建て、かつて家族と暮らした思い出の宿るヴィクトリアン様式の美しい家を愛していた。
　ある日、その家の現在の家主が、相続の問題で手放し、空き家となった事を知ったジミーは、叔母に預けていた家具を運び込んで、無断で住み始める、そんなジミーを、友人モントは、静かに支えていたが……

　海と丘陵と言う変化に富んだ地形が生んだ美しい街、サンフランシスコ――これは、そんな街を舞台に、変わり行く街と、変われない男を描く物語。
　変われない男、と言うのは勿論ジミー・フェイルズの事。家族の最も幸せな時間……美しい家、大工仕事の好きな祖父、スケートボードと仲間たち。ジミーは、何時まで経ってもそこから抜け出せない。祖父と同じ綿シャツを着て、スケートボードを抱え、今は他人の家となった元の家を訪ねては無断で家の手入れをするのです。
　でも、それはジミーが記憶の中で美化された過去で、決して取り戻せないもの。
　映画は、ジミーがそれに気づいて、過去を振り返るのを止め、未来に向かうまでを描きます……物語としては拍子抜けするようなものに思えるかも知れませんが、素晴らしく気品に満ちた映像と、散文詩的な語り口に魅力があって飽きさせず、その中に、ふっと滑り込ませる映像で、これがまだ起きていない未来の出来事なのだ、と世界観を揺さぶる辺り、只者ではありません。

　ただ、これを面白がれるのは、かなりの映画好きで、単館でアート系作品を観るような層ではないでしょうか……まぁ、そうした所もＡ２４作品らしいと言えばそうなのですが。　
　

　（２０２０年　１０月１２日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本・原案・製作

ジョー・タルボット

　■出演

　ジミー・フェイルズ　・・・　ジミー・フェイルズ

　モンゴメリー・アレン（モント）　・・・　ジョナサン・メジャース

（その他のキャスト）
　ロブ・モーガン　　ダニー・グローヴァー　　ティチーナ・アーノルド　　マイク・エップス　　フィン・ウィットロック

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