ウルフズ・コール

　これは、フランスのセザール賞で３部門にノミネートされた、潜水艦が舞台のアクションサスペンス。
　主演は、フランソワ・シヴィル。共演に「スペシャルズ」のレダ・カティブ、「最強のふたり」のオマール・シー。

　フランス海軍士官のシャンテレッドは、人並み外れた聴覚を生かし、潜水艦・チタン号で音響分析官として任務につき、艦長からは“黄金の耳”と呼ばれて信頼されていた。
　だが、シリア沿岸での極秘任務中、怪しげな音の識別に失敗。艦を危機に追い込むばかりか、政治的危機までも招いてしまう。
　彼の耳を惑わせたのは何か……任務を解かれたシャンテレッドは、密かに分析を進めるが……

　フランス海軍は、規模こそ小さいながら、原子力空母から戦略核原潜まで保有し、独自の防衛戦略を持っています。
　この映画が描く危機は、そんなフランスの体制を逆手に取り、フランスにロシアを核攻撃させて、西欧社会を自滅させる企みを描いています。
　これは、可能性としてあり得るもので、こうした説得力のある危機の演出はさすが。この点に関しては、様々な配慮から脱力ものの内容となった「空母いぶき」とはレベルが違います。

　しかし、そんなポリティカルサスペンス設定以外の物語、そして、肝心の潜水艦アクションはリアリズムもなにもないぐだぐだっぷりで、戦闘シーンのあり得なさとご都合主義、軍隊描写のおかしさは、それこそ「空母いぶき」並になってしまう……
　核戦争の危機が迫っているのに、海軍大将がまだ「話し合いを」とか言っているのには失笑させられるし、物語としては、主人公のシャンテレッドの能力が、後半、まるで活かされていないのにも呆れました。
　日本語字幕の酷さも特筆もの。フランス語のヒアリングはさすがに出来ませんが、物語がどうにも判らないのは、この意味不明な字幕のせいだろう、と言うのは推察出来ます――実際、「爆雷」と言うべきシーンで「ソナー」と言ったら、そりゃ意味不明にもなるでしょう。

　製作にはフランス海軍の協力が得られており、艦艇や潜水艦内の様子など、実物ならではの迫力や、興味深いシーンもあるのですが、ここまで物語が酷いとどうにもならない感じです。　
　

　（２０２０年　９月２７日　川崎チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

アントナン・ボートリー

　■出演

　シャンテレッド　・・・　フランソワ・シヴィル

（その他のキャスト）
　オマール・シー　　マチュー・カソヴィッツ　　レダ・カテブ　　パウラ・ベーア　　アレクシス・ミシャリク　　ジャ＝イヴ・ベルトルート　　ダミアン・ボナール

　■コピー

それは、人類滅亡への呼び声――

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