ｍｉｄ９０ｓ
ミッドナインティーズ

　これは、「マネー・ボール」や「ウルフ・オブ・ウォールストリート」などで知られる俳優ジョナ・ヒルが初監督し、自身の青春時代を回想して描くもの。
　出演は、「ルイスと不思議の時計」のサニー・スリッチ。共演はルーカス・ヘッジズ。

　’９０年代半ばのロサンゼルス。１３歳のスティーヴィーは、兄イアンと、シングルマザーのダブニーと３人暮らし。父不在の家で、兄による時に理不尽な暴力に晒される日々の中、イアンは早く大人になりたいと思っていた。
　スティーヴィーの憧れは、街のスケートボードショップで店員として働くレイと、彼の仲間の少年たち。自由気ままな彼らに魅了されたスティーヴィーは、兄から貰ったスケートボードを持って近づくが……

　これもまたＡ２４作品。描かれるのは、揺れる青春の想いと苦悩。それを、’９０年代西海岸の若者文化に重ね、当時少年だったジョナ・ヒルが、自身の思い出を元に描きます。
　それにしても、スケートボードはともかくとして、タバコに酒、セックスとドラッグと、１３歳の少年が経験するにはいささか早すぎるし、一体、何処までが経験に基づくものやら……

　若者映画で多用されるロックや流行りのポップスではなく、ヒップホップを主に起用する音楽や、１６mmフィルムを使い、スタンダードの画角とざらついた画質で見せる映像には、確かに’９０年代の空気感があり、この辺りはジョナ・ヒルの確かなセンスを感じる部分。
　カリフォルニアの眩しい陽光が降り注ぐスケートパークでのスケーティング、グルーピーの女の子たちとのパーティー……そんないかにもな描写だけでなく、夕暮れ時、幹線道のセンターラインをスケートボードで走る姿や、行き場もなくスケートボードを抱えて過ごす深夜など、青春の日々を懐かしく思わせる描写が美しいのも印象的です。

　スケートボードに興じる少年たちは黒人にメキシコ系移民、背景には貧困や家庭内暴力や抑圧がある……と描かれ、当時のスケートビデオの風潮を取り入れて、仲間のひとりがビデオカメラを終始持ち歩いて撮影していると言う設定にしていますが、これには同時期に公開されたドキュメンタリー映画「行き止まりの世界に生まれて」を連想してしまったり――まぁ、それだけリアルな描写、とも言えるのですが。
　ただ、スティーヴィー自身には貧困も、家庭内暴力も、人種問題もなく……これはジョナ・ヒル自身もそうであったでしょう。それ故に、そうした様々な問題を抱えつつ、スケートボードだけを拠り所に街角に集う、スケートボーダーらの生き様の捉え方が、何処か他人事で、奇麗事に留まっているようにも感じました。　
　

　（２０２０年　９月　５日）

（作品データ）

　■監督・脚本・製作

ジョナ・ヒル

　■出演

　スティーヴィー　・・・　サニー・スリッチ

　イアン　・・・　ルーカス・ヘッジズ

　ダブニー　・・・　キャサリン・ウォーターストン

（その他のキャスト）
　ナケル・スミス　　オーラン・プレナット　　ジオ・ガリシア　　ライダー・マクラフリン　　アレクサ・デミー

　■コピー

たちあがれ、何度でも。

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