オフィシャル・シークレット

　これは、イラク戦争開戦前、英国政府を揺るがしたキャサリン・ガンによる情報漏洩事件を映画化したもの。
　主演は、キーラ・ナイトレイ。監督は、「アイ・イン・ザ・スカイ　世界一安全な戦場」のギャヴィン・フッド。

　２００３年。英国の諜報機関ＣＧＨＱ（英政府通信本部）で勤務するキャサリン・ガンは、ある日驚くべきメールを受け取る。アメリカがイラクに対する武力制裁に関する国連決議に臨んで、弱小国の盗聴をして弱みを握り、決議をアメリカに有利なものとするよう協力を求める内容に憤りを覚えたキャサリンは、元同僚の友人を訪ね、メールをマスコミにリークしたいと相談する。
　２週間後、オブザーバー紙の記者マーティン・ブライトの元に持ち込まれたそのメールは、紆余曲折の後に記事化される。
　ＧＣＨＱ内部で漏洩犯探しが始まり、自ら名乗り出たキャサリンは公務情報漏洩の罪で逮捕され、起訴される事になる。キャサリンは、人権派弁護士のベン・エマーソンを頼るが……

　これは１７年前の事件であり、関係者の多くが存命。それを、当時のニュース映像も交えつつ、全て本名で映画にしてしまうのだから大したものです。
　監督のギャヴィン・フッドは弁護士の資格も有しており、本作製作に当たってはひとつ間違えれば訴追され兼ねないと言う事で、相当気を遣ったようです。実際、描けない事は多くあったでしょうが、描かれている事はほぼ事実と思ってよさそうです。

　映画は、国に仕えるものが、国が誤った方向に進もうとする際にどうしたらよいのか、また、組織の中で、法令に縛られる中で、人としてどうあるべきか……と言う、重く、かつ普遍的なテーマを史実に基づき、真摯に映像化しています。一応、法廷サスペンス仕立てとしているものの、イギリス映画らしく真面目で、ひねりも無いのはエンターテイメント性を欠く印象。クライマックスの裁判も、政府の責任を裁判の中で問われる事を避けて検察自ら不起訴にする、と言う肩透かしもいい所の展開となってしまうの物足りませんが、それが事実だから仕方ないでしょうか……
　また、古風に鬘をつけて裁判に臨む英国の裁判の様子は興味深く、キャサリンが逮捕後、情報漏洩と言う重罪犯であるのに取調べを終えたら保釈される辺りについては、我が国との違いに愕然とします――日本だったら、そのまま長期拘留して被告の精神を折りにかかる筈ですから。

ＰＳ
　キャサリン・ガンの言う「私は政府ではなく国民に仕えている」と言う言葉、何処かで聞いた事があると思ったら、森友学園事件の書類改竄で自殺に追い込まれた近畿財務局の赤木氏が同じ事を言っていたのです。「ぼくの契約相手は国民です」と。
　日本にも、そんな官僚がいました。でも、その想いをこの国は受け止める事が出来るのでしょうか……？　
　

　（２０２０年　８月３１日　Ｋｉｎｏシネマ横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督

ギャヴィン・フッド

　■出演

　キャサリン・ガン　・・・　キーラ・ナイトレイ
　
　ベン・エマーソン　・・・　レイフ・ファインズ

（その他のキャスト）
　マット・スミス　　マシュー・グード　　リス・エヴァンス　　アダム・バクリ

　■コピー

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