赤い闇
スターリンの冷たい大地で

　これは、「ソハの地下水道」のアグニェシュカ・ホランド監督が、スターリン政権下のソ連の真実に迫ったジャーナリストの実話を映画化したもの。
　出演は「フラットライナーズ」のジェームズ・ノートン、「ワイルド・スピード／スーパーコンボ」のヴァネッサ・カービー。

　１９３３年。英国の外交顧問であり、ヒトラーへの取材経験をも持つ若き記者ガレス・ジョーンズは、世界恐慌の嵐が吹き荒れる中、なぜスターリンが統治するソビエト連邦だけが繁栄しているのかに疑問を抱く。
　単身モスクワを訪れたジョーンズは、その謎を追っていた知人の米国人記者がモスクワで死亡した事を知らされる。孤立無援の状況の中、ジョーンズはウクライナ行きの汽車に乗り込む。だが、凍てついたウクライナの地でジョーンズが目にしたのは、想像を絶する悪夢のような光景だった……

　この映画、往年の犯罪映画のように抑えたトーンと、少ない説明でハードボイルドタッチにぐいぐい物語を進めていく感じはなかなかのものです。
　描くシーンが描く内容に合わせ、映像や演出を大胆に変える、まるでスティーブン・ソダーバーグのようなやり方で、破綻なく１本の映画にまとめる手腕にも舌を巻きます。

　タイトルにも掲げられたソビエト連邦の“闇”については、歴史を知る人にとってはよく知られた内容でもあり、物語を引っ張る程の謎と言うものではありません。また、物語上の扱いも重くはない……と言うよりも、予備知識がないと、直接的な描写のない本作では、当時のウクライナで何が起きていたのか判らないのではないか、と思う程です。
　その一方で、政治が、本来ジャーナリズムが伝えるべき「真実」を歪めて行くと言う部分が重い――当時のソ連のような共産主義社会では「真実」は存在しないのだ、と言うのが、アグニェシュカ・ホランド監督の主張する所だとは思うのですが、現在、我々が生きる社会においても「真実」は歪められているのではないか、と言う事を思い知らされた感じです。　
　

　（２０２０年　８月１４日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

アグニェシュカ・ホランド

　■出演

　ガレス・ジョーンズ　・・・　ジェームズ・ノートン

　エイダ・ブルックス　・・・　ヴァネッサ・カービー

（その他のキャスト）
　ピーター・サースガード　　ジョセフ・マウル　　ケネス・クランハム　　クシシュトフ・ビチェンスキー
　ケリン・ジョーンズ　　フェネラ・ウールガー　　ミハリーナ・オルシャンスカ

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