ＭＯＴＨＥＲ
マザー

　これは、大森立嗣監督が、現実に起きた殺人事件に着想を得て作り上げた母子のドラマ。
　主演は長澤まさみ、その息子役を本作が映画初出演となる奥平大兼が演じています。
　企画・製作は、河村光庸率いるスターサンズで、「新聞記者」に続き、問題作を次々ものにしている辺り、乗りに乗ってる感じがします。

　仕事もせず、男たちと行きずりの関係を持っては自堕落に暮らし、困窮すると親兄弟に金をせびる、と言うその場しのぎの生活を送るシングルマザーの秋子。そんな母の歪んだ愛に、ひとり息子の周平は、必死に応えようとしていた。
　だが、失われる若さと共に男たちは離れて行き、身内からも絶縁された母子は、社会から孤立して行き……

　これは何とも胸糞悪い映画です。生温かい“ヒューマンドラマ”の溢れる中で、こんな後味の悪い映画を描き切る大森立嗣監督と共同脚本・港岳彦が見せる本作の特異さが際立ちます。
　映画は最初っから最後まで、人の道を踏み外した秋子の人生を描き、さらに、それでも尚、子供と言うのは母を愛してしまうものなのだ、と言う事を重ねて見せます。そして、それは、秋子が子供たちを愛さず、ただ所有し、支配するだけの人間である事が判る終盤になって、なんともやるせない思いを観る者に与えるのです。

　主演の長澤まさみは、これまでにない汚れ役を演じています。しかも、彼女自身、最後まで秋子を理解出来なかったそうで、よくもまぁこんな仕事を受けたものだと思います――その覚悟はさすがですが、ただ、ここまでやるならやはり脱いで見せるべき映画だったかな、と。そして映画後半では特殊メイクでもいいので、その美貌と肉体の衰えを見せる必要があったように思います――それが、秋子の最後の凶行を決意するきっかけになったのでしょうから……
　ただ、それでも尚、これは長澤まさみのキャリアの中で特筆される１本になるものと思います。
　ラストシーンの「好きだ」の言葉に、死んだように濁った目の奥が輝く、その一瞬を見せた芝居が心に残ります。　
　

　（２０２０年　７月　８日　イオンシネマ座間にて）

（作品データ）

　■監督

大森立嗣

　■出演

　三隅秋子　・・・　長澤まさみ

　三隅周平（幼少期）　・・・　郡司翔
　三隅周平（少年期）　・・・　奥平大兼

（その他のキャスト）
　阿部サダヲ　　夏帆　　皆川猿時　　仲野太賀　　木野花　　土村芳　　浅田芭路　　荒巻全紀　　大西信満

　■コピー

すべてを狂わせる《この女》
　聖母<マリア>か、怪物<モンスター>か。

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