ペイン・アンド・グローリー
Pain and Glory

　これは、ペドロ・アルモドバル監督の自伝的とも言われる映画です。
　主演のアントニオ・バンデラスが、昨年のカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞しています。共演には、ペネロペ・クルス。

　映画監督サルバドール。脊髄の痛みと、咽喉部の腫瘍が生む息苦しさに心も体も疲れ果て、引退同然の毎日を過ごしていた。
　そんな日々の中、３２年前に撮影し、長らく封印されていた作品の上映依頼が彼のもとに届いた。プレミアでの舞台挨拶の為、仲違いしていた主演俳優のアルベルトと再会、ヘロイン常習者だった彼から薦められたヘロインにより、痛みを忘れ、夢うつつの中で、サルバドールは自身の記憶をたどっていく……子供時代と母親、その頃移り住んだバレンシアの村での出来事、マドリッドでの恋と破局……

　この映画で描かれる事の何処までがアルモドバル監督の人生を写し出しているものかは判りませんが、年と共に動かなくなる身体と病の苦痛、振り返る過去と、心に残る傷跡――そんな境地で見えて来るものと、その果てに生まれる創作活動、と言う物語は、多くの高齢者に共感を呼ぶのではないでしょうか？
　いずれにしても、老境に至った男の“過去”を整理し、“現在”を描いて、次の一歩へとなる映画だと思います。

　映画中で、アントニオ・バンデラスが映画監督を演じ、劇中劇でそれを更に役者に演じさせるという入れ子構造や、鮮やかな色彩、こだわりの美術に考え抜かれた構図など、アルモドバル監督ならではの描写に、彼の映画常連の俳優陣の達者な演技、と見応えはあります。
　ただ、映画のテンポはゆったりしており、かつてのアルモドバル監督作品が見せていた、性倒錯や狂気など、尖った部分がなくなっている辺りに、アルモドバル監督も歳をとったなぁ、と寂しさも感じました。　
　

　（２０２０年　６月２８日　Ｋｉｎｏシネマ横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ペドロ・アルモドバル

　■出演

　サルバドール　・・・　アントニオ・バンデラス
　
　ハシンタ（母、回想）　・・・　ペネロペ・クルス
　ハシンタ（母、現在）　・・・　フリエタ・セラーノ

　アルベルト　・・・　アシエル・エチェアンディア

（その他のキャスト）
　レオナルド・スバラーリャ　　ノラ・ナバス　　セザール・ヴィセンテ　　アシエル・フローレス　　セシリア・ロス　　スシ・サンチェス
　ラウール・アレバロ　　ペドロ・カサブランク　　フリアン・ロペス　　ロザリア

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それは、人生のはじまり

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