黒い司法
０％からの奇跡

　これは、「ショート・ターム」のデスティン・ダニエル・クレットン監督による、死刑囚たちの人権問題に取り組む黒人弁護士が、冤罪を認めさせるまでの実話を映画化したもの。
　出演は、「クリード」のマイケル・Ｂ・ジョーダンに、「Ｒｅｙ／レイ」のジェイミー・フォックス。「ショート・ターム」でも監督と組んだブリー・ラーソン。

　１９８０年代、黒人差別が根強く残るアメリカ南部で、ハーバード大を卒業し弁護士となったブライアンは、未だ人種差別感情の強いアラバマ州で、受刑者擁護活動のため事務所を立ち上げる。
　そこで、若い白人女性を殺害したとして死刑宣告を受けた黒人の被告ウォルターと出会う。その無実を確信した彼は、弁護をしたいとウォルターに申し出る。
　証人や弁護士たちへの脅迫、黒人に不利な司法システムなど数々の差別にも立ち向かい、ブライアンは、ウォルターに寄り添い、共に闘っていくが……

　これは決して“奇跡の物語”などと持ち上げていいようなものではありません。人間誰もが持っている人間らしく生きる権利を取り戻す、そんな当たり前の事が、決して安易な道程でない、と言う現実には愕然とさせられます。
　そして、それは決して過去の事でも、対岸の火事でもなく、弱者が権力により人間らしくある事を踏みにじられる、と言う事は、残念ながらこの国でも今現在起きている事なのですから……
　
　正義を信じて権力者に立ち向う、ブライアンを支えたのは信仰と音楽――神々しい讃美歌と、魂の叫びであるブルース、そしてブライアンの明るさが、絶望的な戦いに火を灯します。
　その結末は、意外にもあっけないもので、カタルシスも希薄なのですが、それは、ここで描かれたのが今も続く黒人冤罪事件の一例に過ぎない、と言う暗澹とされられる事実のせいかも知れません。　
　

　（２０２０年　３月　１日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

デスティン・ダニエル・クレットン

　■出演

　ブライアン・スティーブンソン　・・・　マイケル・B・ジョーダン

　ウォルター・マクミリアン　・・・　ジェイミー・フォックス

（その他のキャスト）
　ブリー・ラーソン　　ロブ・モーガン　　ティム・ブレイク・ネルソン　　レイフ・スポール

　■コピー

今こそ［正義］を問う。

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