命をかけた伝令

　これは、サム・メンデス監督が驚異の全編ワンカット撮影で挑んだ戦争映画です。
　今年のアカデミー賞では作品賞を含む１０部門でノミネートされたものの、主要賞は「パラサイト 半地下の家族」にさらわれ、撮影賞など技術系部門の受賞に留まりました。
　
　第一次世界大戦中の１９１７年、フランス西部戦線。
　英国陸軍兵士スコフィールドとブレイクは、軍司令官のエリンモア将軍から重要な任務を命じられる。それは、翌朝までに通信線が遮断された最前線の部隊へと向かい、ドイツ軍への追撃を準備するマッケンジー大佐に作戦中止の命令を届けるというものだった。
　ドイツ軍は迎撃準備を整えており、このまま攻撃すると部隊が全滅し兼ねない。それは、この戦場の局面を大きく変化させる恐れさえあった。しかも、その部隊には、ブレイクの兄が所属していた。
　前線部隊の将兵１６００名とブレイクの兄を救うべく、ふたりは死体の散乱する荒れ果てた戦闘地域に踏み出して行くのだが……　

　戦場をどう描くのか――この映画に課せられた使命に、サム・メンデス監督は、切れ目なく続く状況の内に観客を放り込む、ワンカット撮影で臨みました。
　ただし、これはリアルタイム・ワンカットではありません。実際には複数のカットをＣＧで繋いだものですし、午後に出発し、翌朝前線に到着するまでの半日強の時間を、途中、主人公が意識を失って暗転するシーンがあるとは言え、不自然なく２時間で描き切って見せたのは、正に映画の魔法……観客の目前で時間を省略して行く、その巧みさには感嘆します。
　そうしてサム・メンデス監督が描き出した戦場の緊迫感と臨場感は、確かに一見の価値あり――大規模なオープンセットで再現された、その場所は確かによく出来ており、映像としても完成度は凄く高い。しかも、ドラマではなく、“出来事”が次々に発生する、その緊張感がずっと続くのです。
　ただし、戦場ゲームのようなビジュアルには抵抗のある人もいるでしょうし、ワンカットで見せる、と言う映像演出を重視した分、ドラマは希薄……それが、アカデミー賞でも主要賞を逃した要因でしょうか。
　

　（２０２０年　２月１６日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

サム・メンデス

　■出演

　ウィリアム・スコフィールド　・・・　ジョージ・マッケイ

　トム・ブレイク　・・・　ディーン・チャールズ＝チャップマン

　エリンモア将軍　・・・　コリン・ファース

（その他のキャスト）
　ベネディクト・カンバーバッチ　　マーク・ストロング　　アンドリュー・スコット　　リチャード・マッデン

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