９人の翻訳家　
囚われたベストセラー

　これは、ダン・ブラウンの小説、「インフェルノ」出版時の実話を元にしたミステリー。
　監督は、「タイピスト！」のレジス・ロワンサル。出演は、「神々と男たち」のランベール・ウィルソン、「００７／慰めの報酬」のオルガ・キュリレンコ。

　全世界待望のミステリー小説「デュダリュス」完結編の世界同時出版のため、９人の翻訳家が、フランスの人里離れた村にある洋館の地下の密室に集められた。
　彼らは毎日２０ページずつだけ渡される原稿を翻訳、その間、外出はもちろん、ＳＮＳや電話などによる外部との連絡も禁止されていた。
　ところが、出版社社長の元に、未公開の原稿の一部と共に、小説をネットに公開するという脅迫メールが届いて……

　これは面白いミステリーで、引き込まれました。
　映画前半、９人の翻訳家（原語はフランス語で、イギリス、ドイツ、ロシア、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、デンマーク、中国の９言語に翻訳）を均等に描けておらず、特定の人物に偏る描写から、容疑者が絞り込めてしまう辺りはどうかな？と疑問を覚えさせましたが、途中から犯人逮捕後に物語が飛び、犯人と出版社社長の対話となる、と言う……そんな、二転、三転する展開によって最後まで翻弄されました。

　展開だけでなく、さりげなく提示された情報が伏線となる、緻密で巧妙な脚本、９人の翻訳家の母国に関わる様々なネタ、出版業界の蘊蓄で知的好奇心をくすぐり、更に原稿盗み出しのサスペンスまで盛り込んで……単なる密室ミステリーと思っていると、いい方向に裏切られる一級の知的エンターテイメント。これには参りました。　
　

　（２０２０年　１月２５日　川崎チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

レジス・ロワンサル

　■出演

ランベール・ウィルソン　　オルガ・キュリレンコ　　エデュアルド・ノリエガ　　リッカルド・スカマルチョ　　シセ・バベット・クヌッセン　　アレックス・ロウザー
フレデリック・チョウ　　パトリック・ボーショー

　■コピー

［戻る］